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能村登四郎全句集⑥ 『有為の山』

能村登四郎の第6句集『有為の山』は、昭和53年、登四郎67歳のときに出版されました。収録句数は427句。第5句集『幻水山』からわずか3年ほどでの出版です。

自身の胃潰瘍での入院、その看病疲れのため妻が脳腫瘍となり二度の手術、一時は二人とも入院するという大変な時期だったようです。

前句集の『幻山水』よりも惹かれる句が多い句集でした。

あとがきには「自然と作品は暗く、常に死を意識の底に潜ませたような作品が多い」とありましたが。

寒き夜のいづこかに散る河豚の毒
野仏を避けたる野火の大曲り
いのちなりけり元旦の粥の膜ながれ
粥食のつづきの中のなづな粥
昨年よりも老いて祭の中通る
継ぐ息のまづしさ見せて祭笛
紅葉中鯉飼はれゐて落付かず
紅梅のまなじりつよく開きけり
老いし二人だけが眺める雛買ふ
春愁の中なる思ひ出し笑ひ
湯沸してつかはずにゐる半夏生
白桃を切る種までのふかき距離
車酔ひのこりて露の十三夜
冬に入る耳朶のみ老いずやはらかし
凍鶴に十歩はなれて糞も凍つ





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