見出し画像

赤毛のアンシリーズ③「アンの愛情」の個人的名場面9選。

 世界名作シリーズの人気作品であり、いまも世界中の少女たちに愛される小説「赤毛のアン」ですが、今回は全7巻の赤毛のアンシリーズの第3弾である「アンの愛情」について、語らせてください。

赤毛のアンはもちろん大大大好きなんですが、アンの愛情もとっても大好きな作品です。見どころはマリラが引き取った、いたずら好きな双子の男の子のデイビーとアンの素敵なやりとりや、アンの同級生たちそれぞれの人生模様、同居中のジェムシーナ伯母さんの数々の名言、そして何より、ついに恋人となるアンとギルバートのクライマックスシーンはとてもロマンチックで胸を打たれます。
 なかでも特に私が心に残ったシーンをご紹介します。

13章:デイビーとアン

 デイビー「誰かに話さなくちゃ眠れなかったの。」
 アンはその日ものすごく疲れており、眠くてすぐ寝床に入って半ば眠りに落ちていましたが、聴くことを許してあげました。
 デイビー「今日はぼくとても悪い子だったんだ。おっそろしく。今までよりももっと悪かったんだもん。」
    「言うのが怖いな、もうぼくを好きに思ってくれないよ」

(デイビーはこの日、学校をサボり、リンド小母さんに6つぐらいの嘘をついて、啖呵をきった。さらに神様の悪口を言った、と打ち明けます)
   「姉ちゃん、ぼくをどうするの?」
 アン「どうもしないことよ、あなたはもう罰を受けたと思いますからね」
デイビー「まだ受けてないよ、ぼくになんのこともないもん。」
 アン「わるいことをしてからずっと、たいへん、いやな気持ちだったでしょう?それはあなたの良心があなたを罰していたからよ」

 デイビーにしたら、悪い子だと咎められ失望されるかもしれないと不安を抱えながらの告白でしたが、悪い行いをしたことを、そのまま否定も肯定もせず、ただ受け入れてくれたことにより、大きな安心に包まれたことでしょう。さらに、アン自身ががそれに懲罰や賞賛を与えるのではなく、デイビーの中で、もうそれがすでに完了しているということを諭してくれました。
 これ以上ない回答で、私には子どももそれに近しい存在もいませんが、同じような状況が訪れたら、ぜひアンのような対応をしてあげたいと心から思いました。

17章:バターの値上がりについて

 バターの値上がりを嘆くステラに向かってジェムシーナ伯母さんとアンが繰り広げる会話がとても素敵です。
 ジェムシーナ伯母さん「気にすることはないさね、ありがたいことに空気と神様のお祓いはいまだにただだもの」
アン「それから笑いもよ」
  「笑いにはまだぜい金がかからないわ。素晴らしいことよ。」

ないものばかりを見るのではなく、今あるものに目を向けると見事に人生は楽しくなりますよね。ジェムシーナ伯母さんは全体を通して、こういうような凄く粋なことを言うので、お気に入りのキャラクターの一人です。

19章:伯母さんの娘時代

(自由奔放なフィルのことを指して)
ジェムシーナ伯母さん「今までわたしの知っているどの娘にも似ていないし、またわたしが自分でとおってきた娘時代にも似ていませんよ」
 アン「おばさんは何種類の娘になっていらしたの?」
伯母さん「六人ぐらいですかね、」


秀逸です。20代も後半になってくると、振り返れば時期によって様々なキャラ設定をしてきたなって感覚ありますよね?特に女性は、この発言をよくよく理解でき共感しちゃうんじゃないかなーと興味深く感じました。

28章:結婚相手について

 アン「あたし、わるい人と結婚などしたくないわ。でも、わるくなろうと思えばなれるけれど、なろうとしない人なら結婚したいと思うわ。」

 奥が深いな、と感銘を受けました。心のうちにまったく悪い気持ちがなく、生粋の善良な心の持ち主よりも、悪いことをしようと思えばできるけどしないようにする人の方が、人間らしく、いっそう心の器の大きいような気がします。そういう人のほうを、きっと愛してしまいますもんね。

28章② :思春期の嘆き

ギルバートに愛の告白をされて、大事にしていた友情を失ってしまったアンが言ったセリフ。
「ああ、なんていやなことだろう、人が大人になり➖結婚し➖変わらなくちゃならないとは!」

思春期の友情から恋情、愛へ移り変わっていく過程のセンシティブな気持ちがよく表現された一言だと思います。

34章:ジャネットの寛大さ

 下宿先で出会った独身女性のジャネットは、恋仲にあるジョンとは、ジョンの母との約束のせいでジャネットに20年も求婚できなかったが、実母が亡くなり、ようやく40歳になったとき結婚に至りました。ジョンが、”こんなにまで先延ばしになったのは、母のせいだと周りに公表する”と提案すると、ジャネットは”このことは2人だけの胸にしまっておきましょう”と収めました。このことについて、アンがどうしてそんなに寛大でいられるのかわからない、と咎めた際。
ジャネット「あなたもわたしくらいの年齢になれば、いろいろ物の感じ方がちがってきますよ」
 「それがわたしたちが年をとるにつれて学んでいくものの一つですよ、人を赦すということがね。20歳の時より40歳の時の方が楽にそうできるものですよ」

 とても美しく寛大な心の持ち主だと感動し、大好きなシーンです。私はジャネットとジョンのエピソードが、どうしようもなくもどかしく苦しく、しかし、それ以上にロマンチックで素敵だと思います。

38章:自分の気持ちがわからない

 アンが恋をしていると思い込んで、2年もの間、密な関係を紡いでいたロイにプロポーズされた瞬間、好きではないと気づき、その求婚を断ります。友人のフィルが、”自分の気持ちがわからないことにかけては、あたしも同じ過ちを経験したからわかるけれど、それにしたってひどいわよ”とアンを批判した際に抗議した言葉。
アン「自分の気持ちはわかっているのよ」
  「困ったことには、あたしの気持ちが変わるもんで、またあらためてそれを知らなくちゃならないの」

 いやーそうですよね。気持ちや感情はその都度確かに、目の前を流れていき把握することはできるけれど、毎秒毎瞬、目まぐるしく移り変わっていき、すべて正しく捉えることは難しい、ということをよく表しているセリフだなと思いました。

画像1

39章:友の幸福 

 ”アンはいつでも友の幸福を喜んだ。しかし、どちらを向いても、自分の物ではない幸福にとりかこまれているのは、時には少し淋しいことでもあった。”

心から友の幸せを願い喜んでいるのは真実だけど、それと同時に相反する感情が生まれるときは、必ずあると思うので、それをこういう風に的確で美しい言葉で表現してくれることにより、妬み、嫉み、を少し抱えて生きていることが間違いではないんだ、と勇気をもらえる一文ですよね。

ただ、この章の最後には、
”世界からロマンスが剥ぎ取られたというロマンチックな思いつきにより、たちまちおおいに慰められた。”
と締めくくっています。ロマンスがなくなることさえロマンチックに変えてしまえば、人はまだロマンスの中で生きられるのです。すごい素敵な発想転換だと思いませんか?どんな状況下でも在り方次第で、ロマンチックは生まれるのですね。

41章:アンとギルバートの愛

ギルバートが危篤だと知らされた時、アンは初めてギルバートとの絆が愛情であった、自分がほんとうに愛しているのは他のだれでもなくギルバートであったと気づきます。
”愛のばらに較べれば、友情の花は色も香気もなかった。”

少し前まで友情を失うことをあれほど嘆いていたアンが、真実の愛に気づいたことでもう一段階深い感情を得たのが分かる文ですね。

ギルバートは見事に病から立ち直り、アンを訪ねてきます。そのときのギルバートの告白の言葉が、とても美しくて大好きなので、最後に記載させてください。

アンに、これまで実現できなかった夢があるかと尋ねたうえで、
「僕には一つの夢がある。」
「何度か実現しそうもなく思われたが、僕はなおもその夢を追い続けている。僕はある家庭を夢みているのです。炉には火が燃え、猫や犬がおり、友だちの足音が聞こえ➖そして、君のいる。」「僕は2年前にあることをたずねましたね、アン。それをきょう、再びたずねたら、君は別の返事をしてくれますか?」

2人がようやく結ばれることができて、本当にホッとして、そして感動しました。赤毛のアンのアニメでは、お互い惹かれあっていることが誰の目にも明らかなのに上手くいかず発展しないままだったので、この第3シリーズの最後の最後に、愛を確認できたこと、本当に嬉しかったです。

赤毛のアンしか読んだことない人にも、ぜひ読んでほしい一冊です。


#読書の秋2021

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?