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レジの横が騒がしい

夕暮れ時のいつものスーパー

西日の僅かに当たる場所

店員に捕まったのはご年配の男性


彼はレシートを持っていた

なのに終始、項垂れていた

疑い晴れて何度も謝る店員に

彼は戸惑っていた

ずっと項垂れたままだった


冬なのに、春一番が吹き荒れる

新聞は行儀よくラックに並び

鮮やかな見出しの文字が

似たような顔で謳っている

昨日も遠い場所で

大きな不幸があったらしい


それが本当に不幸かどうかはわからない

正しいかどうかもわからない

なのに確実に、誰かは皿から零れ落ちる

幸福の皿から

日々無情にも振り落とされていく


誰の仕業か

いつか大層な名前を付けられ

歴史学者に語られる

理不尽な憎しみの中にも正義はあって

理想の世界を夢見る夜が、幾千万と転がって

触れ合うこともなく

膝を抱えて

瞼を閉じて


むしろ愛し過ぎている

愛し過ぎて、汚れたくなくて

汚れていられる人々が羨ましくて

洗濯物が今日も乾いて

林檎の皮が上手に剥けて

明日の天気を予想するけど

芸能人のスキャンダルの方が気になる

そんな私はレシートを持っていない

丸めて捨ててしまったのだ

愛し過ぎたその証しに

値段と日付と手にした品目が

印字されていたならば


でも今は

たった一枚のその紙切れが

ないのです


帰り道に百円玉を拾う

そっとポケットに忍ばせて

それが私の今日の一番のニュース

その後ろめたさは、遠くの誰かの命よりも

遥かに重い


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お読みいただきありがとうございます。某掲示板に投稿したものですが、良いと言ってもらえたのですが、かなり手を加えてしまいました。生々しい出来事もどうしてもファンタジーとして書きたいという思いがあって、何でかわからないのですが。



読んでいただき、ありがとうございます。 ほとんどの詩の舞台は私が住んでる町、安曇野です。 普段作ってるお菓子と同じく、小さな気持ちを大切にしながら、ちょっとだけ美味しい気持ちになれる、そんな詩が書けたらなと思っています。