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「凶」のおみくじのほうが優しいこともある

事務所に置きっぱなしだった荷物の中に、手帳が混ざっていた。
2023年1月スタートの手帳。つまり、直近の事務所で働き始めると同時に使い始めた手帳。
結局、スケジュール管理は電子デバイスでやるようになったので、3ヶ月くらいしか使わなかったけど、いろんなものが詰まっていた。

今回のテーマは、手帳のポケットに入っていた「凶」のおみくじ。去年の春に、京都の清水寺で引いた。

1泊2日の新人研修なるものの自由時間に、仲良しの同期と京都観光をして、このおみくじを引いた。
大きな筒をひっくり返して、出てきた数字に従って出された紙には、はっきりと「凶」と書かれていた。「何事もうまくいかず」と。
「待ち人、来ず。探し物、見つからず。」さらには「生死、危うし。」と。いや、そこまで言う??と、ちょっと面白くて、インスタのストーリーに載せたりした。

でも「ちょっと凶のまま帰るのは」と思って、他の場所でも引いてみた。
またもや「凶」が出た。2回連続で凶を引いたのは初めてで、というか人生で「凶」を引いたこと自体が多分初めてたったから、なんかもう、逆に楽しくなってしまった。
それで、なんとなく、1枚目のおみくじを、手帳にはさんだ。

今、わたしは「大吉より、凶のほうがやさしいな」と思う。

「短所」とか「失敗」が、むりやり名前を変えられる瞬間をたくさん見てきた。
「短所は長所だ」と、そればかり言う人がいる。就活サイトで「『短所は?』と聞かれたら、長所に変換できる短所を言いましょう」という文章を見たことがある。
「失敗は成功のもと」だとか「失敗は成功だ」みたいな考え方は、きっと役に立つ場面は多いだろうけど、それだけじゃだめだと思う。少なくとも、私は納得ができないと、そう思う。

短所は短所で、劣性は劣性で、失敗は失敗だ。その人が苦しんでいるのなら、悩んでいるのなら、挫折感を味わっているのなら、それはどこまでいっても「短所」で「劣性」で「失敗」なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。
間違っても、対極にある概念に、突然名前が変わったりはしない。
そして、自分以外の人間に、勝手に名前を変えられたくはない。他人が、その人自身が安心して納得するために「その短所は長所だよ」とか「その失敗は成功だよ」なんて、絶対に言われたくない。

辛いなら、別に真正面から向き合う必要はない。箱に蓋をして、そのへんに置いておけばいい。
でも多分、その箱の名前を、無理やり変えちゃうのは、何も解決していないのに「解決済み」のラベルを貼っちゃうのは、やらないほうがいい。
解決したことにすると、肥大化する。そういうのが「コンプレックス」みたいなものになる。他人の言葉が怖くなる。この箱を突かれるんじゃないかと思って、変に、むだに、暴力的な防衛をしてしまう。

だから、箱に入れて、軽く蓋をしておいて、「いま、開けられるかも」ってときに時々その中身をかき混ぜたりして、その中に溜まった「悪い気」みたいなものを飛ばしたらいい。
ある程度「悪い気」が飛んだら、信用できる人に見せたっていい。
とりあえず、そのままで置いておくって、それが大事な気がする。

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「凶」のおみくじは、わたしの現状を反映している気がして、むりに励ましてこない感じがして、すごく嬉しかったし、安心した。
「大丈夫、その挫折は成功の第一歩だよ!」なんて、無責任に明るい言葉をかけてくるこない。

そういえば、今年のはじめにおみくじを引いたときも、小吉が出て安心したっけ。大吉が出たら「うるせえ」って思ったはずだ。

わたしの最近の人生のキーワード「受容」のヒントが、この「凶」のおみくじにあると感じた。

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