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【アドバイザリーボード紹介】組織改革でクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンをV字回復 若月貴子さん

※2024年2月の東証グロース市場において時価総額が最下位だった当社が下克上を目指す挑戦記です。ぜひフォローして下さい。
 
こんにちは。
株式会社地域新聞社(2164)のコーポレートコミュニケーション室の五十嵐(いからし)です。
 
地域新聞社では、今後の事業を確実に実行するために、各分野のスペシャリストによるアドバイザリーボードの組成を計画しています。


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このたびアドバイザリーボードのメンバーの一人に、人的資本経営の強化を担う人材としてクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社(以下KKDJ)の代表取締役社長 若月貴子さんに参画いただくことになりました。
 
今回は、若月さんのこれまでの経歴に加え、今後当社にどのように関わっていくのかをインタビュー形式でお届けします。

若月貴子さんプロフィール

若月貴子(わかつき たかこ) 

1969年生まれ 
1992年:筑波大学卒 
1992年:西友入社 経営管理本部企画室 海外グループマネジャー等 
2007年:経営共創基盤入社 
2012年:KKDJ入社、管理本部長 
2014年:執行役員副社長就任
2017年:KKDJ社長就任 

2006年にKKDJが日本に上陸して行列の絶えない一大ブームを巻き起こすものの、既存店の売上は常に前年割れが続いていた同社。2012年に若月さんが入社し、抜本的な人事制度・組織改革を推進。出店戦略の見直しに伴う大量閉店を乗り越えた2017年に社長に就任して以降は、店舗レベルでのサービス改善を目的としたロイヤルティプログラムの導入やパーパスの浸透に注力。コミュニケーションを重要視し、社員の主体性を引き出しながら自分事化することで、同社の業績をV字回復に導く。 

人事制度は事業戦略を実現するためにある

五十嵐:「崖っぷち大好き」が座右の銘と伺いました。今日はぜひ若月さんがどうやって「崖っぷち」を乗り越えてきたのかをお聞きしたいなと。当社も今まさに崖っぷちなので…(笑)。

若月さん:いやいや、崖っぷちではないでしょう。でも細谷社長がおっしゃっている未来は、おそらく今の皆さんには信じられないというか、まだ懐疑的ではと思います。当社も同じでした。当社は2015年に店舗の大量閉店をして、64店舗から47店舗に減少しました。その時は、本当に復活すると信じていた人はあまりいなかったと思います。でも、なんかできちゃったんですよ。

五十嵐:そこが知りたいです!(笑)

若月さん:なんだろうな…。不可能はないのかなと思っていて。

五十嵐:若月さん自身は、「絶対に大丈夫」という自信のようなものがあったんですか?

若月さん:やっている時はもう無我夢中ですよね。当社の場合、当時は社内で反発も不満もありました。

五十嵐:何から手をつけていかれたのですか?

若月さん:最初は人材育成とチームビルディングですね。私は大量閉店する前の2012年3月に入社したのですが、その時点ではまだ積極的な地方出店で事業を拡大していました。私としては明るい未来がある会社だと思って入社しましたが、実際は既存店の売上高が下げ止まらない状態だった。飲食小売業では既存店売上高の成長は重要な指標ですが、2006年12月に1号店が開店してからずっと既存店の売上高が下がり続けていました。何をやっても売上減少は止まらないと誰もが思っていたけれど、新店を出せば全社としての売上高はとりあえず増加します。言い方は悪いですが、誤魔化しながら成長しているような状態で、このままでは長続きしないだろうと思いました。事業戦略を変えなければならないのですが、結局、事業とは人が動かすものです。特に当社は店舗での接客はじめ働く人のパフォーマンスが事業を左右するビジネスなので、まず人材育成やチームビルディングを改善しなければと思いました。

五十嵐:どれくらいの期間で変えていったのですか?

若月さん:2012年に入社した直後から取り組み始めて、当時会社が抱えていた課題を解決するために、評価・報酬・等級を含めた人事制度の全てを1年後に刷新しました。人事制度は何のためにあるかというと、事業戦略を実現するためにあります。「事業戦略を実現するためのチームや人材をどう作っていくか」というのが人事制度です。当時はそこがうまくいっていなかったので、会社が成長したい方向にチームや人が育つ環境を作るために制度刷新を実行しました。

五十嵐:当社も今人事制度を見直している最中なので、ぜひアドバイスいただきたいです。2015年の大量閉店は、どのような判断だったのでしょうか?

若月さん:当時はマスコミに多くのネガティブな記事が出ていましたが、損益悪化で仕方なく閉店したわけではなくて、実際は「選択と集中」というシンプルな方法を採っただけなんですよね。日本上陸から10周年を迎える2016年の前年に、「ブランドが日本市場で今後も成長し続けるには何をすべきか」を考えた結果、いったんは地方から撤退し、東京、名古屋、大阪の3エリアに経営資源を集中して既存店を立て直すことを選択しました。大量閉店は長期的戦略を実行するアクションの1つと見ていたので、経営陣に敗北感はなかったですね。

五十嵐:一方で、現場はそうもいかないのでは?

若月さん:やはり現場で働く人たちは不安ですし、辞める人ももちろんたくさんいました。ただ、立て直し期は、その数年前からテコ入れを始めていた人材育成や組織改革によって育ってきた人材が支えてくれました。大量閉店後の復活のシーンを、育成した若手人材が中心になって引っ張ってくれました。事業戦略を実現するためにまずは人材を育成する取り組みは、当社の場合うまくはまったのかなと思います。

細谷社長は今、おそらくいろんなことをされようと考えている。それを上で引っ張る人、中間で引っ張る人、現場で引っ張る人をどう育てていくかを社内で検討されているかと思いますが、細谷社長の戦略を実現し成長するには非常に大事なプロセスだと思います。コンサルティングファーム勤務時代にも実感しましたが、どんなに良い戦略を立ても、実行されなければ何も変わらない。「ちゃんと実行したらこの会社はもっと良くなるのに」と、もどかしく見ていたこともありました。なので、現在の会社で事業戦略を効率的かつ効果的に実行していくために、まず着手したのが組織人事改革でした。

五十嵐:ちなみに、事業戦略はどのように描いていたのですか?

若月さん:お店での購買体験に満足しなければ、お客様には再来店していただけないので、まずは店舗のサービスを改善する。そして、お店の体制ができたタイミングを見計らって、再来店を促すロイヤルティプログラムであるアプリ会員サービスをアップデートしたのがステップ2。お客様の購買体験を向上する準備ができたら、タッチポイント(店舗)を増やしていくのがステップ3です。ステップ3では、店舗以外のお客様とのタッチポイントとしてスーパーマーケットの売場へのキャビネット型出店や、デリバリーサービス導入などに取り組みました。

五十嵐:店舗のサービス改善というのは、接客の質を上げていくということですか?

若月さん:そうですね。ドーナツがおいしいことは大事ですが、いくら商品がおいしくても店頭体験が不満足ではもう一回来ようとは思っていただけないので、そこを徹底的に改善しました。当社の従業員は全部で2,000人ぐらいですが、大半が1年の間に半分ぐらい入れ替わるアルバイトさんです。サービスのレベルを維持向上するためには一人一人を丁寧に教えていくやり方は限界があるので、トレーニングのためのデジタルツールを導入しました。全店で均一なサービスを提供することが目的ではなく、どこの店舗でも8割の出来栄えのサービスができることを担保して、残りの2割は各店長の裁量で工夫できるよう、この8割にかける時間をいかに効率化できるか考えて、デジタルツールを導入しました。

五十嵐:具体的にどんなツールなのでしょうか?

若月さん:動画のツールです。通常、トレーニング動画はトレーニーが視聴するだけですが、当社が導入したツールは双方向のコミュニケーションです。例えば、トレーニーが動画で「いらっしゃいませ」のお手本を見たら、自分も実際にやってみてその動画を投稿すると、店長やスーパーバイザーからコメントがつきます。トレーナー・トレーニー双方が効率的に時間を使うことができます。

多店舗展開だと全店に同じことを伝えるのは難しいですが、その点デジタルツールだと一斉に情報を伝えられるところがメリットの1つであるので、うまく活用しています。従業員と確実なコミュニケーションを取ることは大事だと思っています。

「きれいごと」でもいい 言語化することに意味がある

五十嵐:大きく舵を切るのは勇気がいることだと思うのですが、手応えを感じ始めたのはどのくらいなのですか?

若月さん:2016年前半ぐらいまでは大量閉店がメインで、その後に既存店の立直しを本格的に始めました。スタート時はうまくいかないことも多く、例えば先ほどのトレーニングツールでは、動画を見ない、トレーニーが投稿しないといった課題はあったのですが、とにかく諦めずにしつこくやろうと。1つやってみてダメでも、「やり方が悪かったのかもしれない。じゃあどうやったらうまくいくかを考えよう」という姿勢で、まずはスモールサクセスをより多く作ることに注力しました。すると下がり続けていた既存店の売上高が2017年8月にプラスに転じ、そこからはコロナ禍を除いてプラス傾向が続いています。だから手応えが出てきたのは、2017年の夏くらいでしょうか。

五十嵐:結構短期間で結果が出ているんですね。

若月さん:「言われたことをちゃんとやったらうまくいくんだ」という経験は、会社が提案・実行する改革に対する信頼につながるので、スモールサクセスは重要です。スモールサクセスをいかに早く、たくさん作っていくかを改革当初は特に重視していました。

あとはコミュニケーションです。働いてる人、そしてお客さまとのコミュニケーションは大事です。当社が不振だった時期は、「当社のお客さまだから、当社ブランドのことを知っていて当たり前」という前提でのお客様とのコミュニケーションがありました。例えば、「ダズンボックス」割引という、ドーナツ12個でお得になるサービスは当社にとって基本中の基本なので、「来店するお客さまなら絶対知っているに違いない」という思い込みがありました。だけど、実際はそうではない。だとしたら12個購入がお得だということを伝えなければいけないですよね。そういう思い込みを正すコミュニケーションに改善をしていきました。

五十嵐:確かに、そういった思い込みは当社の中にもあるかもしれません。

若月さん:自分たちの価値というのは、お客さまに伝わっていなければ意味がないし、お客さまにも価値を感じてもらえていなければ意味がない。そこは冷静に見直していった方がいいと思っています。

当社で働くアルバイトさんに「この会社は何を売っている会社ですか」と尋ねたら、ほとんどの人は「ドーナツを売っている会社」ではなく、「ドーナツを通してお客さまにジョイ(喜び)をお届けしている会社です」と答えると思います。それは、繰り返しいろいろな機会で伝え続けているから現場のアルバイトさんまで浸透しているのだと思っています。

会社を変革する時にはビジョンやパーパスを決めますが、立派なものを作ることに意味があるのではなく、作ったものを共有し、全員が同じ信念で動かなければ意味がないんですよね。

五十嵐:まさに当社は今、「どう共有していくか」というフェーズです。具体的にどんな方法があるのでしょうか。

若月さん:例えば先ほどのトレーニングツール動画で、私は毎月1回メッセージを出します。同じことを何度も言う時もありますし、そのタイミングで伝えるべきことを話す時もあります。                                              

また、社員集会の場では、経営層が一方的にメッセージを伝えるだけではなくワークショップ形式にして一緒に考える機会を作っています。会社を変革する時、働く人たちが「それは社長がやることだ」と思った瞬間に終わりなんですよね。社長が言っていることを自分たちも当事者として実行しなければと思う当事者意識を作ることは重要で、そうした自分ゴト化するプロセスを我々は手を替え品を替えやっています。

五十嵐:でもそれは簡単なことではないですよね。

若月さん:そうですね。ワークショップについて、「その場できれいごとを言っているだけでしょう」とか「上の人の満足なんじゃないですか」と言われることもありますが、それはそうだと思います。ですが、仮に普段は会社や上司の文句ばかり言っていたとしても、公的な場であるワークショップでは表面的でもポジティブに議論に参加しなければいけなくなる。自分で考えて口に出すプロセスは意味がある。会社やブランドに対して漠然と考えていることを言語化するには技術が必要だし、そのためにいつもより深く考えます。言語化して人に承認してもらう瞬間があることにも意味がある。いわゆる「言霊」ですね。だから、「きれいごと」は大事だと思います。きれいごとが変われるきっかけになることがあるし、きれいごとすら作れない環境は課題があると思います。

きっかけ1つで会社は変われる

五十嵐:若月さんから、今の地域新聞社はどんなふうに見えていますか?

若月さん:ローカルとのつながりが強くて面白いなと思います。当社は、これから社会のために何ができるかと考えて、「Connect to local」という取り組みを始めています。各地域でお客さまと一緒にフードロスなどの社会課題について考えるイベントなどを開催しているのですが、ローカルと深くつながるのは難しいんですよね。今はマスメディアや大手の会社でも、ターゲティングやOne to Oneマーケティングを通じて個と深くつながるためにはどうすべきかを考えている中で、特定のターゲットに強いつながりを持っているビジネスモデルは面白いと思いました。フリーペーパーがデジタルと融合したらまた変わってくるでしょうし、見れば見るほどいろいろなアセットが出てきそうですよね。

五十嵐:そんな当社がこれから変革を進めていく時に、人材育成において大切なことは何だと思いますか?

若月さん:まず1つは、「細谷社長と同じバスに乗っていますか」というところでしょうか。特にシニアマネージャーといわれる人が経営者と同じバスに乗って同じ方向に進もうとしているのか、乗ってはいるけど無賃乗車しているのか。過去の当社でいうと、大量閉店の時に、同じバスに乗る覚悟がない人が一緒に戦えていたかというとそうではなかったと思います。困難な局面でも一緒に乗り越えてくれる人は、ブランドや事業や会社に対してコミットしてくれる人でした。辞めていく人も多い中、会社に残り中核を担った人たちは、「自分たちが苦労して作ってきたブランドを、このままお終いにするのは嫌だ。絶対自分たちの手で復活させる」という覚悟があった。

そうやって腹をくくれる人物なのかを見極めるのは改革のチームビルディングでは必要です。そのためにも、新しい体制ではどんな価値観を大事にしていくか、どういう人がこの会社には必要とされているかといったことを、言葉だけでなく、いろいろな場面で示していくことではないでしょうか。

五十嵐:本当にその通りだと思います。その示し方も重要ですね。

若月さん:当社の場合は、人事制度と併せて組織を変えたのが大きかったです。もともとは店長の上にエリアマネージャーがいて、その上に店舗部門の全体統括者がいました。店長は平均年齢20代で、エリアマネージャーは40代。それだと上司と部下という上下の関係性が強すぎますし、店長にとっては自身の次のキャリアステップがその40代の人たちのポジションであり、キャリアアップの意欲が削がれます。なので、エリアマネージャーを廃止してスーパーバイザー職を新設し、スーパーバイザーを統括する役職を東西それぞれに設置する組織に変更しました。意図的に階層を増やして、若手がチャレンジしやすいポジションを作りました。

旧来は、役職登用は上司の評価・推薦で決めていましたが、新設したスーパーバイザー職は公募制にしました。そもそもやる気がない人を登用してもコミットしてくれないので。登用者は会社だけで決めず、外部のコンサルタントによるアセスメントも実施しました。登用者がなぜ評価されたのかをアセスメント参加者全員が分かるようにして、公平性や透明性を持たせました。この仕掛けは、会社が今までのやり方を変えるということを社内に宣言する意味もありました。

五十嵐:なるほど…。やはり「人」は大事ですね。

若月さん:特に飲食店は、店長さんのやる気次第で売上が10%は変わりますよ。

五十嵐:10%もですか?

若月さん:絶対変わります。お客さまにあともう一品おすすめするとか、あともう一人この時間帯のお客さまを接客しようとか、そういう積み重ねで違ってくるじゃないですか。

五十嵐:当社も支社長次第で10%変わるかもしれないですね。

若月さん:時価総額4倍もですよね。そのワクワク感っていいですよね。チームのトップが「この人と働いたら何か変わるんじゃないか」みたいなワクワク感を与えられるって大事だと思うんですよね。

五十嵐:本当ですね。最後に、今後アドバイザリーボードとしてはどのような関わり方を考えていらっしゃいますか?

若月さん:私に期待していただいているのは人事組織系だと思うので、まずは人事の責任者の方と、どういう課題意識を持っていらっしゃるのか、どういうことがしたいのかをお話ししたいですね。

会社は、きっかけがあったら変われるんですよ。

五十嵐:実際それをやられてるので、ものすごい説得力があります。これからよろしくお願いします!

若月さん:はい、時価総額40億円以上を目指して頑張りましょう!

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