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第9回 地域問題の虫眼鏡~アートプロジェクトから生まれるルーラルデザインの形~

2014.07.16
松本文子
農学研究科 食料共生システム学専攻
生産環境工学講座 地域共生計画学 助教

概要
アートプロジェクトって聞いたことありますか?
今、東京だけでなく地方都市や農村にアートプロジェクトが広がっています。そこでいうアートは、芸術作品やアーティストだけでなく、生きるものやその営み全てを含みます。複雑な現代社会で行き詰まる様々な問題に対して、感性から問いかけるアートプロジェクト。そこで見えるものは、地域問題の新しい答えになるのでしょうか?
松本先生はアートの力を借りて地域の課題を解決するアプローチを研究されてます。アートプロジェクトが全国で展開される事例を紹介しながら、地域計画をベースに地域共創、社会的・文化的価値、インクルーシブデザインなど、自由にディスカッションしたいと思います。

第9回A-launchは
地域共生計画学の松本文子先生をお迎えし
新しい地域連携センターで初の開催でした。

松本先生は
工学や情報科学の力を借りて
地域の現状から一見相反するような
文化や芸術と経済、インフラとの関係をとらえ
人間が便利に心地よく暮らせる社会のあり方
探求していらっしゃいます。

今回は、松本先生が

研究対象としてアートを扱うようになった経緯

アートと地域計画の関係
日本のさまざまな地域で行われているアートプロジェクト

についてお話ししてくださいました。

松本先生は
大学時代に学んだ統計的な手法や
大学院時代に学んだ質的研究法を活用して
マルチメソッドという研究方法を用いています。

地域で行われるアートプロジェクトについて
フィールドワークで地域の問題のメカニズムを解明し
アンケートの質的な分析や事例の比較
GISを用いて地域への効果を評価します。

そして

「アートプロジェクトが地域の幸福度や持続可能性に貢献しているのか」

ということについて
科学の立場からアプローチしていらっしゃいます。

アートと地域計画の関わりは
みなさんご存知の二宮金次郎から始まっていたのだそうです。

高度経済成長期
国土計画において「地域づくり」の重要性が言われるようになりました。

「経済にも、質的なもの(=アート)を」という声から
街中にたくさんの銅像などが建てられるようになりました。

しかし
銅像は「見るだけ」「あるだけ」で関わりを持ちにくいアートなのです。

そこで
人々が積極的にコミットできるアートとして
1980年代に「アートプロジェクト」が行われるようになりました。
そのころは、「ふるさと創生事業」などが行われ
「地域づくり」において「個性」の大切さが注目されていた時代です。

そして現在

持続可能
ソーシャルキャピタル(社会関係資本)

といったことがキーワードになり
それに沿うように
アートプロジェクトが全国で220以上も行われるまでに発展しています。

最近では、小規模なアートプロジェクトが流行なのだそうです。

「瀬戸内国際芸術祭」(瀬戸内海)や
「大地の芸術祭」(新潟県・越後妻有)
「KAMIKOANIプロジェクト」(秋田県・上小阿仁村八木沢集落)
などのアートプロジェクトについて写真を使ってお話してくださいました。

松本先生は
これらのアートプロジェクトの事務局などを担当されていたほか
「東条川疏水 鯉の里がえりツアー」など
地域で積極的に活動していらっしゃいます。
「東条川疏水 鯉の里がえりツアー」の詳細はコチラ


アートは、数学のように答えがあるものではなく
良い・悪いという価値判断がひとりひとりのもの。

だからこそ、市民参加のきっかけになりうる。


アートプロジェクトは
社会の様々な課題を解決する「インクルーシヴデザイン」なのだと
松本先生はお話してくださいました。

プロジェクトを始める前は地域の抵抗があっても
プロジェクトを進めていく中で
アートが地域になくてはならないものになるケースが多いようです。


「地域問題の虫眼鏡」をもつ=地域を理解する

という視点をもった
魅力的なアーティストが地域を変えていく。

そんな営みを、科学的に分析していく面白さに触れられました。

会場には
アートプロジェクトに参加した学生さんや農学研究科の先生方など
13名の方が参加されました。

たくさんの質問も飛び交い
机を囲みアットホームな雰囲気でディスカッションをしました。

中には「音楽やアートで昆虫を守りたい」という声も。
アート×虫×地域という可能性も垣間見えました。

松本先生からのプチアートのおみやげは
アーティストが「限界集落」をテーマに作った
「KAMIKOANIプロジェクト」缶バッチでした。

笑いあり、驚きあり、さまざまな学問や意見が飛び交う
有意義なお昼のひとときでした。

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