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開催報告:第2回オンライントーク「グローバル・サウスにおける海外農業投資と小規模農⺠の暮らしの変容」

先月に続き、オンライントーク『地域研究へのアプローチ』の第2回「グローバル・サウスにおける海外農業投資と小規模農⺠の暮らしの変容」を9月13日に開催しました。今回も50名を超える方々にご参加いただき、活発な質疑応答や意見交換が行われました。ご参加いただきました皆様に、広報チーム一同、心より御礼申し上げます。

当日の様子を、今回の登壇者であり、広報チームのメンバーである東智美(星槎大学)から、簡単にご報告させていただきます。

まず、『地域研究へのアプローチ』の副編者で、広報チームのメンバーである森口岳さん(東京農業大学)に、開会のご挨拶と本の紹介をしていただきました。

次に、本書の編者の一人で、立命館大学の嶋田晴行さんから、「『グローバル・サウス』とは?」というテーマでお話いただきました。嶋田さんは本書の第3章「グローバル・サウスと『途上国』」を執筆されています。「グローバル・サウス」とは、格差、ジェンダー、環境、紛争、移民・難民といったグローバルな課題を「国境」のような、これまで設定されていたさまざまな枠、括り(くくり)、概念を外して認識し、考え、解消していくことを目指すものではないか? あるいは、あまり定義などに拘らず使うことが相応しいのではないか? という問題提起がなされました。その後、第3章の内容に触れながら、「途上国」の中の格差や「先進国」の中での格差が広がる中で、「途上国」を一括りに定義できなくなっているが、一方で国と国との関係で行われる公的開発支援の場においては、「途上国」という分類が依然として必要であるというお話がありました。

そして、第5章「貧困削減の機会か?土地収奪か? ——ラオス北部の中国企業のバナナ栽培が小規模農民の暮らしに与える影響」を執筆した東からは、グローバリゼーションの中で拡大する海外農業投資とラオスの土地問題について概説した上で、ラオス北部に拡大する中国企業の投資による輸出用バナナの契約栽培の事例研究について報告いたしました。

北部ウドムサイ県のバナナ農園が操業されている村落と、農園に出稼ぎ労働者を送り出している村落において行ったフィールドワークからは、バナナ農園に土地を貸す地元住民、農園で働く出稼ぎ労働者、事業に関わる地方行政官は、バナナ農園での農薬の多様が環境や健康に悪影響を与えることへの懸念を抱きながらも、それぞれの動機から事業に関わっている状況が見えてきた、という調査結果を報告しました。さらに、こうした状況では、猶予が許されない違法な農薬や廃棄物による環境汚染への緊急の対策と同時に、海外投資事業に対するより一層の環境社会配慮と長期的な土地利用計画が必要となっていると、ラオスのバナナ栽培事業をめぐる課題を提示した上で、現場を歩き、そこに暮らす人びとの声に耳を傾ける地域研究者が果たせる役割についてお話させていただきました。

質疑応答では、東南アジアの農村社会の変容、ジェンダー、農民運動、農産物の認証制度など、多様な観点から質疑応答や意見交換が行われました。本書の筆頭編者である児玉谷史朗さん(一橋大学名誉教授)からは、ラオスのバナナ栽培の事例研究について、グローバル・スタディーズと地域研究、双方のアプローチから課題に迫る研究であるとコメントをいただいた上で、イギリスで作られた基準が、ヨーロッパ、そして世界に拡大し、サプライチェーンが管理されるようになっているという、世界の食料安全基準をめぐる状況について、お話いただきました。

東の報告のレジュメで紹介したドキュメンタリーは、こちらでご覧いただけます。(当日、上映したものとは異なります。)

『ラオス北部のバナナ栽培』(2014年、メコン・ウォッチ制作)
https://www.youtube.com/watch?v=jSU5x-Nrnfo

『森の価値、人の価値〜ラオスのカム民族と焼畑農業〜』 (2011年、メコン・ウォッチ制作)
https://www.youtube.com/watch?v=hiUkjReeNQs

『地域研究へアプローチ』を教科書としてお使いになる教員の方や、本書を読んでくださる方は、併せてご覧いただけると、第5章について理解を深めていただけるのではないかと思います。

10月は、「第3回 国際協力のロジとフィールド:国連とNGOの職員からの現場報告」として、本書のエッセイ執筆者の村上敏生さん(国連世界食糧計画(WFP)職員)と、NGO職員(交渉中)に、実務家の視点からお話いただきます。10月下旬を予定しておりますが、日程が決まりましたら、こちらの記事や、SNSで詳細を配信していきます。

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