【盛況御礼】開催報告:第1回オンライントーク「地域研究の教科書ができるまで」

オンライントーク『地域研究へのアプローチ』の第1回「地域研究の教科書ができるまで」を8月18日に開催しました! 50人を超える方々にご来場いただき、ブックトーク、座談会、質疑応答と、1時間半のプログラムを盛況のうちに終えることができました。ご参加いただきました皆様に、広報チーム一同、心より御礼申し上げます。

当日の模様を広報チームの佐藤章(編者の一人)の方から簡単にご紹介いたします。

冒頭の趣旨説明(担当は佐藤)では、このオンライントークが『地域研究へのアプローチ』(ミネルヴァ書房 2021年)の刊行記念イベントであること、そして「本の魅力と地域研究の面白さについてお伝えし、分かち合」う機会として企画されたことが紹介されました。

引き続きブックトークに移り(担当は同じく佐藤)、本の利点と長所が語られました。この本が児玉谷史朗さん(一橋大学名誉教授)の退官記念論文集として作られたものであることがまず紹介され、世界の地理・社会を概論的に学ぶいわゆる「地域概論」とは異なるタイプの教科書を作ろうという発想で企画された点が、特徴として挙げられました。具体的にはこの本では、世界の各地域が具体的に直面し、かつ他の地域にも深く関わる重要テーマである「貧困」「移民・難民」「紛争」「開発」を掲げた部が設けられています。各部ではテーマに関する歴史、概念、事例がバランスよく学べるように工夫されていることが、「移民・難民」を掲げた第Ⅲ部を例にとって解説されました。このような工夫によってこの本が、地域研究の着眼点、問題意識、研究手法などのエッセンスを伝えられるものになっており、地域研究に初めて触れる学生の方々にもってこいの内容であると同時に、すでに関心をお持ちの方がさらに深く勉強する手がかりも豊富に含まれていると紹介されました。

そのほか、児玉谷さんのゼミで地域研究を学び、そのあとさまざまな分野に進んだ方々に書いていただいた「地域研究と私のキャリア」という14本のコラムの魅力、読みやすさ重視の編集、発展的な勉強のための仕掛けなど、この本の特徴が紹介されました。

さて、ブックトークの後は、「副編者に聞く——地域研究の魅力と教科書ができるまで」と題して、この本の副編者を務めた東智美さんと森口岳さんが登壇し、地域研究にとって重要な調査手段であるフィールドワークについて、体験を踏まえた座談会が行われました(聞き手は佐藤)。タイとラオスをフィールドとする東さんは、初めてのタイ訪問時に出会ったダム事業への抗議運動によって、開発とは何だろうという問題意識が芽生えたことや、ラオスなどの農村部においてかつては夜に炉端で昔話をするようなのどかさがあった村の人々の生活が、近年ではみなテレビに夢中になっているというような変化を語っていただきました。他方、東アフリカのウガンダをフィールドとする森口さんは、思うようにアポイントが取れずに苦労したり、アジア系排斥のデモに出くわして差別にあったりといった、たいへんな思いをしながらも、滞在先で出会った人々と語り合ったり、夜の街のバーを訪れて人間観察をしながら研究を深めていった経験を語ってくれました。フィールドワークでは現地で話されている言語を習得することが必要ですが、言語を学んでコミュニケーションができるようになる一方で、やはり完全に話し相手に溶け込めるわけではないという、どっちつかずの状況になるということも、お二人のそれぞれのエピソードを通して分かった話です。「お二人にとってフィールドワークとはなんでしょう?」という問いに対しては、森口さんは「日本と違う、違う世界を生きることができる」体験であること、東さんは「わからなかったことの謎が解けてきてスリリング」な体験だとそれぞれに語りました。


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(質疑応答の模様:左上から時計回りに、東智美、佐藤章、児玉谷史朗、森口岳)

その後の座談会に続く質疑応答では、筆頭編者の児玉谷さんも回答に参加され、鋭いコメントをお伺いしました。参加者からの質問には、この本の副題にある「グローバル・サウス」の意味についてのものが集中しました。その応答として、かつては途上国だけの問題とされてきた諸問題が、先進国を含めたグローバルな問題として現れている現実に注意を促すための手がかりとして用いたことが佐藤の方から説明されました。そのことを踏まえ、児玉谷さんからは、そのような新しい状況のなかでも、ひとつの地域を継続して見るのが地域研究ならではの特徴だと語られました。

以上、第1回は、予定時間いっぱいを使っての密度の濃いイベントとなりました。ご参加いただきました皆さんに、改めまして御礼申し上げます。

9月13日には第2回のオンライントークを開催します。
第2回の詳細は、このnoteの別記事にまとめてあります。
参加申し込みを絶賛受付中です! みなさまぜひどうぞお気軽においでください。

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