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砂を掘るということは

ザクッ、グッ、ドサッ

ザクッ、グッ、ドサッ

ザクッ、グッ、ドサッ

なるほどね、砂を掘るのはたぶん幼稚園以来だけどなんとなくコツ掴んできたわ。スコップの角度と勢いとどの位置でテコするか、ね。いけるいける。

つーか、どこまで掘ればいいんだ?足曲げれば見えなくなるくらい?全身?もっと深く?ネットで調べておくんだったな。ネットにあるか?「砂浜 深さ 人」みたいな?ああ、こんなざるみたいな計画、うまくいくんだろうか。だからって今更やめないけど。

ホームセンターで慌てて買った懐中電灯だけどけっこう明るいじゃん。穴の向こう側で仰向けに転がってる春香の頬が光に照らされている。その先に見える海は真っ暗で、懐中電灯の光がひゅるひゅる吸い込まれていつまで経ってもお腹がいっぱいにならない妖怪が実はすぐそこにいるんじゃないかと思う。

真っ黒な夜の海を背に、天を見上げた春香の横顔だけ白く光ってる。人形みたいに真っ白な肌。ほんと、真っ白。あの頃よりも。

あ、あれか、砂掘るの、小学生以来か。あれ、なんだっけ?30年後に開けましょう、って、未来の自分に手紙を書きましょう、って埋めたやつ。春香、『ゾウ使いになりたい』って書いてたっけ。なりたい職業書くとか七夕じゃないっつーの。つーかゾウ使いってなんだよ。って2人で爆笑したな。次の年一緒に動物園のエサやり体験して「ゾウでかいし臭いし怖いからゾウ使い無理だ!」ってまた爆笑したっけ。私は…私は何て書いたんだっけ?未来の私に。あと13年後の私に。ああ、全然思い出せないや。

カットモデルの声かけされまくりで髪にお金使ったことないほど美人なくせに口が悪くて男勝りで突拍子もなくていつまで経っても友達が私しかいなかった春香。恋しても恋されても、相手が顔と性格のギャップについていけずフェードアウトされてばっかりだった春香。

そんなアンタが慎司くんと付き合うとはね。お似合いだよ。ほんとお似合い。


ザクッ

とスコップを砂にさして

グッ

と足で体重をかける

テコの原理で砂を乗せたら、その勢いで力任せに遠くへ投げる

ドサッ


けっこう長い時間ここにいるけど、よく誰にも見つからないもんだな。警察とかそうそう来ないもんなんかな。まあいいや。慎司くんにさえ見つからなければ。慎司くんが煮え切らない態度ばかり取るからこんなことに。


春香。私は親友のアンタのために。アンタの頼みだからこそ。なのに


「んもおおおおお!!!!はるかああああ!!いつまで寝てんだよ!!!!アンタが慎司くんにサプライズプロポーズしたいっつーから手伝ってんでしょーがあああ!!!!」




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【妄想ショートショート部】

今週のテーマは、「夜の海」「親友」でした。



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