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【中学受験シリーズ】ロビンソンノート

昔、ロビンソンノートという名の雑記帳がありました。黄色い表紙で、小学生が使うノートとしては古風な見た目で、まさにロビンソン・クルーソーが無人島で使っていたかのような。

当時、私は小学校5年生くらいで、中学受験をしていて、勉強しているふりをして、自室から外を見ていました。

その時は、団地の7階に住んでいて、自分の部屋がベランダとつながっていました。窓をがらがらと開けてベランダの手すりをひらりと飛びこえれば、もうこの人生にさようならできるな。そんなことを考えながら、

「人生の淵に座って私は考える。もうここから飛び降りて死んでしまおうか」

小学生なりに精一杯気取った出だしの詩を、ロビンソンノートに書きつけたのが、私に「日記」という習慣をつけさせた始まりでした。

私は母親の主導で中学受験の準備をしていましたが、毎日、母親から、殴る、蹴る、ひっかく、髪をひきずる、眠らせないなど、今でなら教育虐待と思われるような「指導」を受けながら勉強していました。

その時は週に2,3回は死んでしまおうと思っていましたが、もちろん10歳やそこらだったので、本気ではありません。せいぜい、ロビンソンノートに「死にたい」とかいう暗い詩を書いてみたり、団地の最上階(13階)の非常階段まで登ってぼんやり下を見て、誰か気づいて声をかけてくれないかなと期待してみたり、子供らしくSOSを出していました。誰も気づいてくれませんでしたけど。

教育虐待。当時はそんなコンセプトはなかったし、みんなそんな家庭ばかりだと思っていました。

親は自分のために一生懸命だし、教育費も出してくれた。世の中にひどい境遇はたくさんある中で、私は恵まれていると思っていました。

時は流れて子どもが生まれて、自分も親になりました。幸せいっぱいの毎日なのに、まさかの不眠。ロビンソンノートの黄色表紙が脳裏にちらつく。眠れない。これではいけないーー

私は、自分と向き合うために中学受験の体験を綴り始めました。

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