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【中学受験シリーズ】魔法の暗記ノート

子どもに暗記させるということ

色々な受験勉強のスタイルがあると思いますが、わが家の場合、母親が、私の勉強のカリキュラムを完全に決めていました。いわゆるマイクロマネジメントです。

毎日学校から帰ると、今日は何の勉強をするかを母親が指示します。例えば、教科書の何ページから何ページまで覚える、問題集のここからここまで解く、といった具合。そして当然、終わるまで眠ることを許してくれません。でも子供の目から見て、その課題は1日で終わる量ではない。

教科書を「覚える」という課題の場合は、30分から1時間「覚える時間」をもらったあと、「覚えた」と私が申告すると、母親が口頭でテストをしていました。教科書のその部分から、ランダムに質問を出すのです。それに私が即答できないと、
「なんで覚えてないんだよ!」
と怒鳴られ、蹴りや、平手や、教科書が飛んでくる、という調子でした。

しかし、なんでと言われても、人間はそんなに短時間に大量のものを覚えられないません。どこを聞かれるかもわからないから、教科書の隅から隅まで覚えるのは、不可能に近い。それに、勉強していたちゃぶ台の向かい側に、母親がドンっと座って私を睨んでいる状況でした。そんな中で「暗記せよ」というのは、蛇にみつめられて固まってしまったカエルに、盆踊りを踊らせるようなものでした。

魔法の暗記ノート

すると、母親は、何度蹴っても、殴っても、引っ掻いても、覚えられない私に業を煮やし、自分で「暗記ノート」なるものを作り始めました。

教科書が覚えられないんだったら、覚える要点をまとめたノートをつくればいいじゃないか、ということだ。母親はせっせと手を動かし、教科書を見ながら、覚えるべき箇所をノートにまとめて、私に手渡します。

そのノートも母親が見つけてきた、特別な「トレーシングペーパーノート」です。ページの間にトレーシングペーパーが挟まっており、ページの上にかぶせて自由に追記できる。

母親は、そのトレーシングペーパーで、覚えるべき場所を黒塗りにして私に渡す。私は、その黒塗りの部分を覚えればいい、というわけだ。さあ、ここまでしたのだから覚えるでしょう!

このトレーシングペーパーノートは、勉強ツールとしてすぐれものでした。それは認めます。ただここでポイントは、「ノートを作るのは母親でした」という点です。親が作ったノートの内容を覚えているのは、残念ながら親であって、子供はその作業に一切関与してないのだから、覚えるはずがないんです。当たり前ですね。

教科書だろうが親が作ったノートであろうが、与えられてひたすら覚えるのは苦痛だし、時間がかかります。

その結果どうなるか

母親だけが、ひたすら日本史に詳しくなります。歴史に、理科にも。ノートを作って勉強しているのは母親なのですから、当然でしょう。

北条時宗が何をしたか、安土桃山時代に花開いた狩野派の絵師、狩野永徳の作画は何か、ばっちり覚えている専業主婦は多くないでしょう。この努力ができる親はすごい。

でも、悲しいかな、子ども(私)はそれでも覚えられないのです。それがわかると母親はキレて爆発し、また私を蹴飛ばす、殴る、ひっかくの騒ぎになります。挙句の果てに母親は、私の手を取り、

「狩野永徳は唐獅子図屏風だよ!」

と怒鳴りながら、ボールペンで、覚えることを私の手のひらに力いっぱい書いていく。あまりに筆圧が強いので、手の皮が破れて血が出てくる

私の受験生活は、そんなことの繰り返しの毎日でした。

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