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ウェザーフォーカス

『ウェザーフォーカス』


 朝5時すぎ。天気予報に間に合うように、テレビをつけた。ほとんど寝ていないせいで、目がショボショボする。しばらくはコンタクトを入れられそうにない。

『おはようございます!』

 テレビの中から元気な挨拶が聞こえた。朝から無駄に爽やかな気象予報士の姿に、軽くイラッとする。この男と3時間前に喧嘩したなんて、眠くてボンヤリしているせいか現実感がない。そう、現実感がないほどバカバカしいやりとりだった。

「朝の予報の最後に合図するから見て」

 そう言われて困惑したのは、公私混同するオトコが苦手だから。とまどう私に彼は不思議そうな顔をした。

「喜ばないの? 普通、女の子ってこういうの好きじゃない?」

 彼はたまに、とんでもない地雷を踏む。この時もそうだった。

「普通って、私を普通の女の子と一緒にしないでくれるかな」

 自分でも驚くくらい、冷たい声が出た。何様だ、私。

「うわ、そうなの? 可愛くないなあ」

 おそらく反射的に出ただけだろうが、彼が新たな地雷を踏む。そこから私は黙り込み、気まずい雰囲気。やがて彼は時間が来たので局へと出かけて行った。

 違うのに。

 本当は嫉妬しただけ。かつて彼の合図を受けたはずの誰かに。普通の子と一緒にされるのかイヤだったわけじゃない。だって私はこんなにも普通すぎるほど普通だ。嫉妬で口もきけなくなるほどに。

『今日は全国的に晴れ。おだやかな一日となるでしょう』

 前は誰に合図を送ったの?

 もちろんそんなことは言えるわけもなく。

 彼だって、いつも公私混同しているわけじゃない。それはわかってる。ただ、私の部屋で過ごした初めての朝だから、なのに一緒に夜明けを迎えられないから。

 そこまでわかっていながら、どうして私は。

「可愛くないなあ」

 彼の言葉を口に出してみた。ホントにそうだ。喜ぶフリをしてあげれば良かった。違う、本当は嬉しかったんだから、素直にそう言えば良かったのに。

『布団を干しておいてくださいね』

 突然、テレビの中の彼が言った。

『こういうおだやかな日はですね、外出もいいですけど、お昼寝にも最適です。僕は今日は昼までなので、そのあと青いチェックの布団で昼寝したいなあなんて思ってるんですよ』

 青いチェックの布団。

 もしかして、いや、もしかしなくてもこれはウチの布団のことだ。

 公共の電波でなんてこと! あんまり驚いたので、なんだか呆然としてしまった。天気予報は終わってニュースが流れ始めたけれど、耳に入らない。予報の最後に合図をしたかどうかさえ、見逃してしまった。いやもう合図なんてどうでもいい。そんな可愛らしいレベルじゃないし。

 バカね。

 なんだか力の抜けた笑いがこみ上げてきて、床にごろりと転がった。もう少し陽が高くなったらリクエスト通り、布団を干そう。

 今日の彼は全国的にバカ。そして私はおだやかな一日を過ごせそうだ。

【ノベリストに2010-06-04 に投稿したものを再録】

 
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【ついのべ投稿したものはこちら(2010-05-10に投稿)】


天気予報を見ながら考えた。今夜あたり、彼が来そうだ。

シャツの色でわかる。

頑張りやの彼はテンションを上げるために、疲れてくると明るい色のシャツを選ぶ。


たぶん無意識に。

何か美味しいものを作って、彼を待とう。

空模様を予測する彼の心模様を予測できるのは、私だけだから。


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酷暑だというのに季節感無視した作品でスミマセン。読み返したら懐かしかったので-。

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