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川端千帆の即興動画と、国語の必要性

とにもかくにも、動画を上げたInstagramのリンクを貼っておこうと思う。非ユーザーも観れるかどうかは分からないので、そのへん誰か教えてほしい。

ラクリモーサの即興

川端千帆はドイツ、コブレンツ市劇場勤めのバレエダンサーである。普段はというと、己のスキルによって振付家の目指すものを忠実に表現しようと奮闘している。

たまに制作側に回ることもある。冒頭の『即興配信』もそうだ。コロナ禍において舞台上演が禁止されたため、苦肉の策として劇場が提案したデジタルストリーミング。それは建設に例えると「今からビルを作るよ。はいどうぞ、後はお好きに」くらいダンサーにとって自由度が高く、各々の創造性やエンタメ性に賭けたものだった。とどのつまり、丸投げだった。

選曲を一任され、曲を聴きこんでいる時点で既に純粋な即興ではなくなっている点については今回は割愛するとして。

W.A.モーツァルトの『涙の日』は、ご存じの方も少なくないのではないだろうか。モーツァルトが死の淵に8小節ほど書き、残りは彼の生徒が作ったとも伝えられているレクイエムだ。

この曲を去る5月、22歳という若さでお亡くなりになられた女子プロレスラーの木村花さんを追悼する今回の即興にあてたいと思った。

多くの人の心の中に一石を投じた死だったのではないか。川端千帆の心中においては今もなお、波紋を身体中に広げているぐらい。

即興のテーマを考えている最中、その波紋が何かとぶつかって、ある問いを浮かび上がらせた。

私たちはなぜ言葉を、『国語』の授業で習うのだろうか?

幼児は周囲の会話を聞いていくうちに理解を示し、文章を構築して話せるようになる。そういうものだ。ドイツに渡った川端千帆が基礎からみっちり学ばなくとも、なんとなくドイツ語を話せるようになったのと同じこと。

けれど小学校への進学を機に、私たちは国語を習うようになる。ざっくりと、過程の半分は漢字の習得。そして残りの半分は、古典作品などを引き合いに出して読解力を養う勉強をする。

物語が進行していくにつれ、「登場人物はこの時どんな考えでこの発言をしたのか?」「この文章に作者はどういう意図を持たせたかったか?」と繰り返し問いかけられる。作者の気持ちなんて知らんがな、と当時は呆れ半ばだったが、ここへきて、あの勉強は何よりも大切な事だったのだと知る。

非常にシンプルなことだったのかもしれない。私たちは国語の授業で、言葉が他人にどれだけの影響を与えるかを学んでいる

笑っていた人が一言で憤怒する。慕う気持ちを歌に詠む。夢のある物語を紡ぐ。情報を共有する。言葉で喜びを与え、時に傷つけ、励ましあう。

言葉は人生を左右する。言葉は人を活かし、時に殺す。

同じ言葉でも、発された背景によって意味は異なってくる。誰が、いつ、どこで。情報が足りない場合は、推察する。推し量らなければならない。

そのため与える側も、受け取る側も、情緒を養う必要がある。考える力を。だからこそ国語は『習う』必要があるのだろう。ただ喋れるだけではなく、言葉をじょうずに扱うために。

包丁の使い方を知らない者は柄ではなく、刃を掴んで己自身を傷つける。そしてもっと酷い事に、それを凶器に使う者がいる。本来ならそれは調理の際大いに役立ち、温かい食事をふるまうためのものだというのに!

木村花さんは生前、言い返そうと思えばいくらでもできたはずだった。それに労力を払うのが馬鹿馬鹿しくなってしまったのかもしれない。言っても無駄だと諦めたのかもしれない。そう、真実は未だに闇の中だ。私たちは彼女に諦められ、見捨てられたのかもしれない。川端千帆は密かにそんなことを考える。

番組側が意図して非難を誘う演出にもっていっていたのかは定かではない。仮に全く台本がなかったとしても、冒頭の彼女の即興が、選曲をして設定がある時点で「完璧にリアルな即興」の意味を果たしていないのと同じだ。

制作には常に表と裏が存在する。バラエティーでいう所の「リアル」なんて全くもってあてにならないのだ。そんなことをお構いなしに、人々はまるでダーツで遊ぶかのように言葉のナイフを投げつけていた。

言葉で人を傷つける行為は、言葉の誤用なのではないか?

過ちに気付いた人は、気付いた瞬間から、正しく振る舞わなければ。ただでさえ傷口から毒が広がるようなものなのに、優しい言葉をもたないで私たちに誰かを癒すことなどできっこない。

いい年した大人が「優しい言葉を使う」という持っていて然るべき決意を改めるのは少し気恥ずかしいものの、これからも一生付き合い続ける自分の言葉に、ずっと真摯に向き合って生きたい所存である。

いかねば、ならないのだ。なぜなら彼女はもう、気付いてしまったのだから。


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