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「韓国人にはハマらない」そう誓ったハロオタのアラサー女子がBTSに沼り、人生好転した話

ついにこの日がきてしまった。

好きな男たちが、軍隊に行った。


戦前の日本の話ではない。男たちとは、韓国の7人組アイドルグループ「BTS」のことだ。

2023年12月11日と12日、すでに韓国陸軍に入隊しているメンバーを除く4人が入隊式を終え、BTSのメンバー全員が兵役に就いた。

「みなさん、元気でいてください。行ってきます。愛しています」

入隊当日の深夜1時44分、オンラインプラットフォーム「Weverse(ウィバース)」で約8分間の生配信をしたのは、BTSの最年少JUNGKOOK(26)。坊主頭を帽子で隠し、時折寂しさをにじませながら、入隊前の最後のメッセージを私たちに伝えてくれた。

韓国陸軍の兵役期間は18カ月。約1年前にグループ内で最初に入隊した最年長のJIN(31)が戻るのは来年6月。その後も各々のタイミングで除隊するが、7人が揃った姿を見るのは2025年6月以降までおあずけだ。



完全体のBTSを当分見られないのは、とても寂しい。ただそれ以上に私が感じたのは、彼らへの感謝の気持ちだった。

BTSに出会い、人生が楽しくなった。やりたかったことに挑戦できた。「ありがとう」と伝えたくなった。

私のBTSへの感情は言葉にするのが難しい。

恋愛対象への愛ではなく、子どもに向けた愛でもない。完璧に歌って踊る姿や、バラエティに全力な姿、化粧を落とした彼らの日常のちょっとした姿……様々な顔をもつ彼らを見ているだけで、ただただ幸せな気持ちになるのだ。

「とにかく体に気をつけて、また元気な姿を見せてね」

私は仲良しのいとこを送り出す年上の親戚のような気持ちで、彼らを見送った。


……ここまでBTS愛を存分に語っておいて言うのもなんだが、私は2年半前まで完全に「アンチ韓国ブーム」派だった。

大学生だった2010年頃、韓国アイドルが日本中で人気になっても、社会人になり周りが韓国ドラマを見始めても、「私は絶対に韓国人アイドルにはハマらない」と固く心に決めていた。

なぜか。それは私が日本のアイドルグループ「ハロー!プロジェクト」(通称ハロプロ)を10年以上推してきたからだ。

ハロプロは1つのグループ名ではなく、同じ芸能プロダクションに所属する複数アイドルグループの総称だ。音楽家のつんく♂がプロデュースするモーニング娘。を筆頭に、2023年12月時点で6グループある。

私はこれらのグループを「箱推し」(特定の1人を応援するのではなく、グループ全体を応援すること)するハロオタだった。

いつから好きだったのか、正確には覚えていない。小中学生だった2000年代前半は、絶対的エースのゴマキや辻ちゃん・加護ちゃんが活躍。モー娘。の全盛期だった。私も駄菓子屋でモー娘。の生写真を買い、レンタルショップでCDを借りるくらいは好きだったが、特に熱心なハロオタではなかった。

転機は2007年。高校2年のとき、モー娘。の妹分グループ「Berryz工房」のシングル曲『胸騒ぎスカーレット』を深夜の音楽番組で偶然聴いた。幼さが残る10代の少女たちが大人びた歌詞を歌い、独特なテンポの曲に合わせ、ロングスカートを揺らす。「なんじゃこりゃあ!」と衝撃が走った。つんく♂が作詞作曲をした、いわゆるつんく曲の魅力に気づいた瞬間だった。

そこからは、ハロプロ曲を聴き漁る日々が続いた。同じクラスにハロプロ好きの女友達が2人でき、ハロプロ曲だけ歌うカラオケを月1ペースで開催。コンサートには4回参戦した。

つんく♂が書く心の内面ダダ漏れ思春期こじらせMaxの歌詞。独特のメロディー。ライブで魅せる生歌とキレキレダンス。かっこいいけど、完璧にかっこよくなりきれない、その絶妙なバランスが大好きだった。



そんなわけで、「アイドルはハロプロしか認めない」という信念をもっていた私。それがどうして韓国人の男性アイドルにハマったのか。

一言でいうと、「本物を見てしまったから」。それに尽きる。

BTSを初めて知ったのは2021年4月。この時期はハロプロの推しが続々と卒業し、ハロプロにつんく以外の作詞(作曲)家が提供した楽曲も増え、正直モチベーションが落ちていた。そんなとき、1年前の8月にリリースし世界中で大ヒットした英語曲『Dynamite』をテレビの音楽番組で偶然聴いた。

「良い歌。米国の歌手かな?ジャスティン・ビーバーとか」。テレビを見ずに、洗い物をしながら流れてきた歌を聴きそう思った。本当にジャスティンの曲だったら「ふーん」で終わっていただろう。だが視線を画面に移すと、そこに映っていたのはアジア系男子。紹介には「韓国のアイドルグループ」とある。

混乱した。まさかの韓国人、まさかのアイドル。そして彼らは「私の中のアイドルのレベル」をはるかに超えた歌唱力と表現力をもっていた。

一体何者なんだ。答えを探しに、Yo​​uTubeを漁る。ダンスのレベルも高い。歌っているときの表情の作り方も、映像の撮り方も、何もかもがアイドルの枠を超えている。「韓国アイドルはこんなにレベルが高いのか……」。何も知らず、知ろうとせずにきた自分を悔いた。

BTSにハマる決定打となったのは、ニューヨークの国連本部で2018年に行った演説だ。リーダーのRMが流暢な英語で「自分を愛し、自分の心の声を聞くこと」の大切さを説いていた。その堂々とした姿に、私は圧倒された。

「こんなに毅然と英語で自分の思いを語れるアイドル、他にはいない」。世界中で大きな反響を呼んだ約6分間のスピーチに、私は完全にノックアウトされた。

「かっこいいけど、完璧にかっこよくなりきれない」ハロプロが好きだった私が、「完璧にかっこいいもの」に出会ってしまった。

そこからの展開は早かった。映像を見れば見るほど、ハマる。7人のキャラクターを知れば知るほど、好きになる。頼れる最年長JIN、作曲が得意なSUGA、ダンス番長のJ-HOPE、英語が堪能な秀才RM、中性的な魅力をもつIMIN、独特な空気感のイケメンV、ずば抜けた歌声の愛されキャラJUNGKOOK。ステージ上ではかっこよく、バラエティーをやらせても抜群に面白い。全員のキャラが立っている。

さらにBTSは、支えてくれるファン(通称ARMY)をいつも第一に考えている。「ARMYのおかげで自分たちはここにいる」「ARMYが自分のすべて」。いつもありったけの言葉で思いを伝える、まさに完璧なアイドルだった。


BTSにハマったことで、毎日のエンタメ要素が180度変わったことは言うまでもない。X(旧Twitter)やInstagramで日々流れてくる情報は韓国一色に。韓国ドラマにも少しずつ手を出した。

だが、もっと大切な変化がある。いつかやりたいと思いながらも行動できなかった2つのことに挑戦できたのだ。

ひとつは車の運転。

大学を卒業する直前に免許は取ったものの、ほとんど車に乗らないペーパードライバーだった私。「いつかやらなきゃ」と思いつつ、やる気が出ない。そこでiTunesにBTSのアルバムを7つダウンロードし、運転中のBGMにした。

すると運転へのモチベーションがみるみる急上昇した。最初は近所のスーパーに行くことから始め、今では高速道路も含め1時間以上ぶっ通しで運転できるように。後部座席に座る我が子も自然とBTSの曲を口ずさむようになった。「今日は私が運転するよ」と夫に提案するまでになったのは、紛れもなくBTSのおかげだ。

もうひとつは英語学習。

受験英語は習得したが、話せなかった。「いつか話せるようになりたい」と思いつつほとんど何もしなかった私が、国連でのRMのスピーチを聞いて火がついた。使える英語を身につけるため、英語のラジオを聞き、英語日記をつける。ミャンマー人と週1回40分間オンラインで話すプログラムにも参加した。「いつか話したい」で終わらず行動に移せたのは、RMの堂々とした姿に憧れたからに他ならない。

「いつかやる」の言い訳ばかりで行動しない私に、BTSが変わるきっかけをくれた。一歩踏み出したことで、私の人生は確実に楽しくなった。私がBTSに出会ってどれだけ変わったかを夫に伝えると「推しがいるのがうらやましい」と呟いたことが忘れられない。

BTSが7人で活動再開するまで1年半。長いようであっという間だろう。彼らはきっと今よりずっと成長して帰ってくる。

私もこの1年半、やりたいことから逃げず「お互い頑張ったね」と胸を張って再会できるよう、精一杯生きよう。


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