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ストーリーを感じるデザインとは? テキスタイルブランド”nocogou”のルーツを訪れてみた。


nocogou(ノコゴウ)とは

夫婦でつくる布製品はあたたかくて素朴なのに、キチンとここにしかない存在感を持っています。nocogouは、旦那さんがテキスタイルデザインを形作り、手捺染で丁寧に染め上げた布を、奥さんが一つ一つ縫製しているテキスタイルブランド。二人の作り出すものは、暮らしに使い心地の良いものばかり。この夫婦を私はよく知っています。旦那さんのかっちゃんは昔、一緒に働いていたし、奥さんのめぐちゃんも距離感の近い愛すべき存在。今回、写真を撮ってくれた夫のデザインスタジオArticalで私たちは、出会いました。

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nocogouの夫婦を知らない方から見ても、なぜか作り手の人柄が伝わってくる味わい深い世界観を持っています。なぜならnocogouの布に彩られた柔らかい線や形は、どことなく身の回りにあるような、ないような。そのルーツを知りたくて、私は、岡崎の山間地”ノコゞウ”に行ってきました。(※nocogouのブランド名は地名”ノコゞウ”に由来しています。)

nocogouのルーツ、”ノコゞウ”の地を訪ねて

名古屋から車で2時間ほど。若干の冒険感のある山道を抜けると、そこに広がる里山、畑、川。日本の田舎風景を絵に描いたようなリアル田園。

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”ノコゞウ”の田んぼの真ん中で稲刈り作業をしていたのが、nocogouの二人。旦那さんのかっちゃんはここ、”ノコゞウ”で生まれ育ちました。土地を離れた今でも、夫婦揃って田んぼの世話を定期的にしているそうです。

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「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし。失われし大地との絆を結び、ついに人々を青き清浄の地に導かん・・・(風の谷のナウシカより)」あまりにも大地の恵みが神々しすぎて自然と涙ぐんでしまうほど。大自然に圧倒されてしまいましたが、この地がまさにnocogouのルーツ。改めてご夫婦にテキスタイルの模様に込めた思いや、使い心地へのこだわりを聞いてみました。写真はnocogouの夫婦、かっちゃん&めぐちゃん。

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二人のものになったストーリーが作り出すもの

K(旦那さんのかっちゃん):nocogouブランドを立ち上げる前、自分には何のルーツもなくて悩んだ時期がありました。周りを見ると、北欧で修行を重ねた人や、もともと家業を継ぐ人、波乱万丈でどこを切り取っても面白い人ばかり。ずっとデザインをやってきたけど、テキスタイルに関しての経験は浅く、田舎育ちだし、この仕事に関わる特別なストーリーもないと思っていました。「もっと自分の生きて来たルーツを表現すべき」と共に働く先輩に言われましたが、私にとっては無意識すぎて、それを形にしたって誰かが喜ぶなんて思えなかったんです。「自分にルーツなんてない!描いているものに理由もない。」と、ちょっと頑なになっていた時期もありました。でも自分から出てくる柄は、身近な植物だったり、山の面白いカタチだったり、石垣、木、どれも慣れ親しんでいた景色からだったんです。

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M(奥さんのめぐちゃん):いくつか柄を作って、マルシェやイベントに出店したんです。すると、自分達が思っているよりも、お客さんは評価してくださって。同じ出店者さんからも、柄やコンセプトを褒めていただいたり。自分にとっては当たり前の景色でも、誰かにとっては珍しかったり、懐かしかったり。外に出ることで、今まで普通だと思っていた自分達の存在が、意外に求められる部分もあるんだと思えたんです。

K:自信を持って、自分の良いと思うものを背伸びせずに表現していくことだと確信しました。無意識に出てくるモチーフは、自分たちが見ているもので、見てきたもの。それは今も昔も変わらない、景色なんです。

ただ、今でも新柄を作るのに時間はかかります。自分のルーツである”ノコゞウ”にとらわれず、心地よい線や可愛らしいモチーフを自由に形にするようにしています。新しいことをと思って自分としては挑戦した柄も、やっぱりnocogouらしいねと言われると嬉しいような。自分から出てくるもの全てがnocogouなんだと思えます。でも自分はテキスタイルのデザインを作るところまで。実際にそれを楽しみながらハンドメイドできるだろうか?には妻の意見がとても助かっています。

M:デザインが出来上がった時、この柄はカバンに合うなとか、ワンピースにしたいなとかイメージが沸いてきます。逆に、柄は良くても使い道が浮かばないものは商品化できません。布をどう使うかはお客様の自由ですが、やっぱり柄を見て何を作ろうってワクワクできるものをと意識しています。柄をダメ出しすると夫にムッとされることもありますが、「出来ないものは出来ない!」と私も折れないので喧嘩しながら日々進んでいます。

K:nocogouは二人のブランド。どちらも譲ることはありませんが、見ているものは同じ。季節ごとに田んぼを育てることをもう何年も夫婦で一緒にしていると、自分の故郷ではあるものの、妻のほうが土地に詳しかったり、田んぼのことを気にかけてくれたり。自分の親や親戚のことも、私よりも妻の方が良く知っていて、どちらの実家かわからないと言われるほど。”ノコゞウ”の景色はもう夫婦の景色で、そこにあるストーリーも共有できているからこそ。無意識に同じものを見ていることで、nocogouの作るものにブレがなくなってきた気がしています。

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nocogouの布がおにぎりに合う理由

nocogouの二人との話を終え、しっかりと仕事でも家族でも二人が握り合えているところをヒシヒシと感じ、大自然を背景に圧倒される私。

我が家は毎年”ノコゞウ”の新米を取り寄せています。小粒だけど、しっかり味のあるお米はおにぎりにとても合います。そんなお米を作っている夫婦が生み出すnocogouの布製品は、おにぎりに合わせたい完璧なストーリーが私の中で出来上がっています。

おにぎりに合うっていうのは意外に難しく、主張しすぎず、でも楽しさというか、コロリン感を添えてくれるデザインが必要なんです。おにぎりは、ご飯を握ったものなので、ラップやアルミホイルに包むだけだと、なんとも味気ない。昔みたいに竹皮に包みたけど、竹皮はそこら辺に落ちてないし、子供には渋すぎます。北欧柄マリメッコにはライ麦のパンを包みたいし、ミナペルホネンの布にはハムサンドを包みたいです。(かなり個人的な意見です。) nocogouの布は、おにぎりを包み込むのになんとも自然で、お米そのものよりも彩りがあるのに、おかずほどの過剰な存在感はなくてちょうど良いんです。ただなんとなく、柄と生地の問題かなと思っていたけれど、今回の取材でnocogouのルーツを知ることができ、納得しました。

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何十年前から自然の景色が変わっていないこと、夫婦二人が見ているものが同じこと、米作りを通して生きていく術を知っている強さから来ているんだとしみじみ感じました。今回、お米の収穫に立ち会えて、二人に改めて話をうかがえて嬉しかったです、かっちゃん&めぐちゃん、ありがとうございます!

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photo:小島邦康(Artical Inc.)







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