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仁王さまはどちらが大顔? 東大寺と金峯山寺を勝手に比較してみた

 「日本一の桜の名所」とも言われる奈良・吉野山には、修験道の中核寺院の一つ、金峯山寺(奈良県吉野町、金峯山修験本宗総本山)がある。

 その入り口、仁王門(国宝)の修理に合わせ、2体の金剛力士像(仁王像)も修理を受けた。それが終わり、仁王門の修理終了までの間、奈良市の奈良国立博物館(奈良博)のなら仏像館で特別公開されている。

 高さは、口を開いた阿形(あぎょう)が5.058m、口を閉じた吽形(うんぎょう)が5.062mあり、東大寺(奈良市)の仁王像に次いで、日本で2番目に大きな仁王像だ。

 滅多にない機会なので、奈良博で拝ませていただいた。ありがたいことに写真撮影が許されていて、思うままカメラを向けることができた。

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【右が阿形、左が吽形。間に立つ警備員さんと比較すると大きさがわかる】

 やはり大きい。間近に寄って見上げてみると圧力を感じる。

 吉野山には毎春のようにお花見に行っていて、この像が立つ仁王門も何度となくくぐっているのに、これほどの迫力とは気づきもしなかった。

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【足も大きい】

 同博物館発行のパンフレット『特別公開 金峯山寺 金剛力士立像』によれば、南北朝時代の延元4年(1339)に康成(こうじょう)という仏師が制作した、ヒノキや杉による寄木造。東大寺像が建仁3年(1203)の作だから、130年以上後にできた事になる。

 展示室に立つ金峯山寺像を見ていて、ふと、こんなことを思いついた。

 「この2体は東大寺の像より、顔が大きいのではないだろうか?」

 単なる妄想だ。でも気になるので、帰宅してから電卓をたたいてみた。

 東大寺像のデータは、昭和63年(1988)から平成5年(1993)にかけて実施された解体修理の記録『仁王像大修理』(監修・東大寺、東大寺南大門仁王尊像保存修理委員会編、1997年)によった。金峯山寺像の高さは前述のパンフレット。ただし、金峯山寺像の顔の長さは記述がなかったので、パンフレットの全身写真から計算してみた。

 両寺の像で顔の長さを比べた結果がこんな具合。

東大寺阿形 2.035m 金峯山寺阿形 0.915m (東大寺が2.22倍)

東大寺吽形 1.565m 金峯山寺阿形 0.916m (東大寺が1.71倍)

 どうだろう。顔の長さは、阿吽どちらも東大寺像の方が割合的に大きかった。さらにいうと、全身の大きさでは東大寺の方が金峯山寺の1.95倍だから、比率的に見て東大寺阿形の顔の大きさが際立つ。

 もちろん、一部は写真から割り出した、実にざっくりとした数字なので、かなりの誤差があると思う。ただ、東大寺の仁王様の方が金峯山の仁王様より大顔、逆に言えば金峯山の方は小顔と言ってよさそうだ。

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       【金峯山寺 阿形像全身】

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       【頭部のアップ】

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       【金峯山寺 吽形像全身】

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       【頭部のアップ】

 展示室の金剛力士像の写真を見直してみる。先ほどまでとは違って、なんだかバランスのいいお顔立ちのように見えてきた。すみませんでした、仁王さま。

 それにしても、二つの寺の違いはどこから来るのだろう。素人の勝手な推測だが、像を安置する門の場所のせいではないのだろうか?

 東大寺の南大門は平地で、仁王像2体は互いに対面するように立つ。一方、金峯山寺の仁王門は山の斜面にあって、仁王像は斜面の下を見るような格好だ。

 東大寺を訪れた人は像の足元から顔を見上げるから、小顔だったら迫力を感じないだろう。逆に金峯山寺では、やや離れた場所からも仁王像の姿が見えるので、顔を殊更に強調する必要はなかったのではないか。この推論が当たっているかどうか、金峯山寺の像がお山へ戻られた時によく見直して、確かめてみたいものだ。

 金峯山寺金剛力士像の公開は、YouTubeにある奈良国立博物館の公式チャンネル「ならはくチャンネル」で動画が公開されている。4月11日現在、搬入・展示編と解説編の2本で、間もなく第3弾が公開予定という。こちらも楽しみだ。
https://www.youtube.com/channel/UCUfAObtbhhZOUTifuw1keLQ

 私はまだ駆け出しの新聞記者だった頃、東大寺仁王像の保存修理の現場を何度か取材する機会があった。ということは、日本で1番と2番の仁王像が元の場所を離れたところに立ち会えているわけだ。この偶然を誰に感謝したらいいだろう。

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