千尋草
ニ 主人公

ニ 主人公

千尋草

「いらっしゃいませ!新茶のご予約のお客様ですね!」
5月の新茶のシーズンを迎え、店内は活気に満ちていた。
今日も新茶を求め、朝から来客が絶えなかった。

「明日香ちゃん!包装5箱頼める?」
「大丈夫です!」

元気良く答えた明日香は、急いで包装台に向かった。
寺尾明日香(てらおあすか)
今年からこの店で働き始めた新入社員だ。
入社して1ヶ月、依然慣れないことばかりだが、包装のスピードには自信があった。

「星野さん、包装できました!」
「ありがとう!千尋ちゃん帰ってきたら交代で休憩入ってね!」
「はい!」

星野店長は、明日香から受け取った紙袋を抱え、馴染みの常連客の元へと駆け寄った。

「お待たせしちゃってごめんなさい。袋5枚一緒に入れてありますからご利用くださいね。」
「ありがとう。ねぇ、あの新人さんすごく頑張ってるじゃない。」
「そうなの、あの子包装上手いのよ」

4月に入社して以来、商品知識の他、お茶の淹れ方や包装、冠婚葬祭の一般常識など覚えることが山積みだった。その中で明日香は包装が得意だった。
研修中に包装の角の仕上げが綺麗だとマネージャーに褒められたことが嬉しくて、夢中になって練習したのだった。
同期入社の千尋にはスピードで負けるが、その分丁寧な仕上げを心掛けていた。

「ただ今戻りました〜」

福岡千尋(ふくおかちひろ)。
明日香と同じ今年入社の社員である。
社員研修で仲良くなって以来、店舗研修の配属先も同じと、何かと縁のある間柄だ。
「おかえり。さっき総務から千尋にメールが来てるって仙波さんが言ってたよ。」
「ありがとう。ちょっと確認してみる。このまま休憩行っちゃって」
「うん。ありがとう。」


「お電話ありがとうございます。河越製茶 リバーヒルズ店 寺尾でございます。」
「お疲れ様です。仙波ですけど、星野さん今大丈夫そうですか?」
「仙波マネージャーお疲れ様です。星野店長は今、接客中ですけど、お急ぎでしょうか?」
「急ぎじゃないので、手が空いたら僕の携帯に電話するように伝えてください。」
「承知しました。失礼します。」

河越製茶株式会社は、創業100年を超す老舗企業だ。
約10年ほど前に現社長である3代目に代替わりしてからというもの、店舗数を順調に増やし、県内でも指折りの茶商にまで成長させた。
旧態依然の古い会社の体質を刷新し、合理的な店舗経営を追求した結果、大幅なコストダウンと業務の効率化を実現した。
福利厚生や労働条件を現代水準以上に引き上げ、求人サイトのクチコミでも優良企業と評されることが増えた結果、安定した求人が行えるようになった。

そんな折、メディアでも度々取り上げられていた大型ショッピングモール「リバーヒルズ」への出店が決まり、その戦力として明日香たちが配属されたのだった。




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千尋草
日本茶販売店勤務。