見出し画像

言葉の力〜苦手な子ども

保育士をしていると、子どもに「いやだ」と言われることがあるだろう。
お昼寝で寝かし付けをしようとすると、体を捩らせて嫌がられることがあるだろう。
時には「来ないで!」と拒絶されることすらある。

私にも苦手な子がいた。
過去形なのは、今はその子への苦手意識がなくなったからだ。
それはその子の言葉にあると思っている。

子どもは話せるようになっても、どこでも誰にでも言葉を使うわけではない。

家ではおしゃべりだけれど、外では一切話さないという子がいる。

その子はそういったタイプだった。
家での様子はどうあれ、園では話さない。

その子に嫌われている感覚があったので、普段構いすぎないようにしていた。
その方がお互いの幸せな時もある。
しかしやむなくつかなくてはならない時がきた。

昼食で、その子は手のかかる子の隣に座っていた。
私はその手のかかる子につかなくてはならなかったのだ。

私がそこへ行くと、その子は怪訝な表情をした。
そして開口一番私を見てニヤニヤしながら、

「やだ」

と言った。

今までは見つめて泣かれていたが、この時は言葉ではっきりと拒絶されたのだ。
かえって心折れる方もいると思うが、私はむしろチャンスだと思った。

手のかかる子を示し、

「この子のこと見ないといけないの。だからここにいてもいい?」

と言った。
するとその子は納得するように大きく頷いて、それ以降泣いたり「やだ」と言わなかったのだ。

かといって、その後すぐに円満になったわけではない。

その後お昼寝の時間に、その子が手の届く範囲にいた。
私はその子にトントンしていた。
そうしたらその子に、
「トントンしないで」
と言われたのだ。

「どうして?」
と聞くと…

「ママお迎え来るから寝ないの」
とのこと。

そこで私は考えるジェスチャーをし、
「ママが来るのはいつもおやつの後だよね?」と言った。

その子は、
「うん」
と言った。

私は、
「じゃあ、おやつの時間までお昼寝しようね」
と提案した。

するとその子は、
「うん」
と笑顔で言って、体を丸めたのだ。

その後、しばしの蜜月を楽しんだ。

これは言葉の力で気持ちが通じ合った出来事だと思う。
その言葉は一方的なものではなく、お互いの気持ちに寄り添うものだ。

また拒絶されることがあっても大丈夫、私はそう思った。
その子と私は「言葉」をつかって、お互いを思いやることができるからだ。

言葉で表現することが自由なのは、圧倒的に保育者だ。
だからこそ言葉は寄り添うように遣いたいと思う。
言葉での表現を豊かにすることで、子どももその豊かさを享受できるのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?