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日記を書こう-大台ヶ原トレッキング日記①-

「日記を書こう」

荒川洋治さんの「日記をつける」を読んで日記を書いてみようと思う。これは若かった頃の私の回想日記である。

「山へいこう」

しばらく会っていなかった大学時代の友達の思いつきで人生初のトレッキングへ行くことが決まった。場所は奈良県にある標高1600メートルを誇る大台ヶ原。僕はというと、アウトドアとは全く縁のない筋金入りのインドア派。大丈夫か?

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「黒のインプレッサに乗って彼女はきた」

近鉄奈良駅で待ち合わせをした。白いオールスターのスニーカーと古着のジーンズに、山の上で寒くなったら着るための薄手のパーカーとパタゴニアのナイロンブルゾンを鞄に入れただけの軽装で彼女を待った。装備は充分とはいえず、スタートの時点で既に不安。

「おっす〜♪」

しばらくすると、彼女は黒のインプレッサに乗って待ち合わせ場所にあらわれた。黒のオールスターにカーゴパンツとパーカーの軽装の彼女を見て少し安心。そんなにハードじゃないってことよね?

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「久しぶりの再会の話題は...」

彼女が運転し、僕は助手席に座った。車内では下ネタがほとんどだった。あきれながらも、つい彼女の話に乗っかってしまい、ほっぺたが赤くなる。途中、コンビニ寄ってお茶を買った。

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「彼女は大きく息をすった」

奈良市内からかなり南下し、吉野の山中を走る周囲の背の高い山々には、ポツポツと赤や黄に色づいた葉も見られ秋の気配を感じる。車はまっすぐな道を機嫌よく軽快に走る。空気もよくてひんやりとした風が窓から入ってきて心地いい。

「空気がおいしいね」

うれしそうに僕の隣でハンドルを握った彼女は大きく息を吸っていた。

「サイキック能力発動...か?」

木材を運搬中のヘリが、大きな音を立て、ほぼ真上を低空で飛行している。彼女の中の少年の心の琴線に触れたのだろうか。木をワイヤーで吊るしたヘリを見て彼女は大興奮だ。車を止めてしばらく真上のヘリを珍しそうに眺めていた。

「木が車の上に落ちてくる気がする」

未来のヴィジョンがみえたのか、彼女が車を急発進させた。彼女はたまにこんな不思議なことを言う。

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「ごめんね」

トンネルを通るたび「ごめんね」と言い彼女はあわてて車の窓をしめる。トンネルの中にはよくない霊がたまにいるのよ...とさらっと言うのだけど、そのあわて方が気になります。

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