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消えた兄の思い出


ヘンなところで妙に記憶力の良い子供だった私。

小学校の卒業前に書いた作文のために、
「生まれてから、いちばん最初の記憶」について
いろいろ思い出してみたことを今でも覚えている。

それは、籐でできた乳母車の中に居たこと。
兄とふたり一緒に乗せられて、
乳母車の中に敷かれた薄い座布団の上に立って
外の風景を見ていたこと。

たぶん、私が2歳、兄が3歳の頃のこと。

踏切の音や、線路の上を通る時のガタガタ感も
なんとなく覚えていた。

それを母に話したら、
確かに乳母車に私と兄を乗せて、毎日散歩に出かけたと、
そしてその散歩コースの途中には踏切があったと言い、
「そんな赤ちゃんの頃のことを覚えているなんて、気持ち悪い子!」と
感心されるどころか不気味がられてしまった。

まあ確かに、そんなこと覚えているくらいなら、
脳のその部分を勉強に使ってほしかった、っていう気持ちもわかるけど…。

その次の思い出は、母が妹を出産する頃に
兄とふたりで預けられた、母方の叔母さんの家のこと。
3歳前だった。

私は叔父さんのことがめちゃくちゃ苦手で、叔父さんが帰って来るとすぐに
テーブルの下に隠れたことを覚えている。

それから、叔母さんがくれたピンクの化粧ポーチ。
ピンクのレースをビニールでコーティングしたそのポーチは
叔母さんの使い古しで、四隅のビニールが破れていたけど、
お姫様のバッグのように素敵で、私の宝物だった。

テーブルの下に隠れて、ひとりでそのポーチを開けたり閉めたり…
そのうち、パチンと留めるガマグチ状の留め金を壊してしまった。

それにしても、そのポーチのことを今でもはっきりと思い出せる私って
そんな小さな頃から物欲のカタマリだったのかしら。

妹が生まれた後も、私と兄はたびたびその叔母さんの家に預けられた。

ある夏の日、叔母さんの家の周りの野原で遊んでいた時のこと。
蝶かトンボを追いかける兄の後ろを走っていた私の前から
兄がこつ然と消えた。

「???」

次の瞬間、地面から再び現れた兄は、
この世のモノとは思えない臭さだった。

「!!!」

その頃の田舎には、たぶん当たり前のようにあったコエダメに
兄はドップーンと落ちたのだった。

叔母さんの家の外で、兄がホースで頭から水をかけられている様子を
今でも私はぼんやりと覚えているのだけれど、
本人は「そんなことあったっけ」と首をかしげる。

そんな思い出って、普通忘れたくても忘れられない気がするが…。

兄の頭には、子供の頃の記憶はあまり残っていないらしい。
そのかわり、私と違って勉強はすごくデキた兄。
やっぱり小さな頃の妙なことばかり覚えていると
算数や理科の大事な部分は、脳に入りにくくなるのかもしれない。

ジュニアに「小さい時の一番最初の思い出って、何?」と聞いてみた。

「家のソファをハサミで切ったことかなあ」
「自分がスーパーマンになったつもりで階段から飛び降りたことかなあ」

ジュニアは、お父さんにド叱られたことを中心に覚えているらしい。

(4/2/10 ジュニマネ回想記)

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