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日々
実家に帰って来ているけど、家族と誰とも連絡がつかない。いつもだ。
テレビは頭が痛くなるニュースばかりだし
猫はどっかに遊びに行ってしまったし、
一人で散歩をしている。
夏が始まった覚えはないが、もうひぐらしが鳴いてる。ひぐらしって夏の終わりのイメージ。
ザリガニのハサミだけが道に落ちている。
拾い上げてみたら想像以上に軽い。
綺麗だな。
葉っぱが一枚だけ変に揺れている。
なんか手招きしてるみたいで近付いてみたら止まった。
少しゾッとするくらいの草木の勢い。
視界に入る緑が、緑だけで3000色くらいあるのではないかと言うほど、どの緑も隣の緑と混ざる事なく、個として存在している。
そうしながらも、全てが美しく清々しく調和している。
人と違って。
凄まじい自然の中に、ポツンと紛れるガードレールや電柱やコンクリートや看板などの人工物。
自然たちはそれらを別に拒絶するでもなく、干渉せず共存している。溶け込ませている。
そして、不思議と何の違和感もなく混ざり合っている。
そうゆう景色が好き。
ここはアブラゼミが鳴いている。
季節をワープした気分になる。
急に今までの木と違って赤杉らしき木がたくさん生えている場所を見つける。変なの。こんな場所知らなかった。
下手に伐採された木に、苔が生えている。
生命の上にまた生命が存在している。
人が歩いていない道には草が生えている。
人間がこの世界から消えたら、あっという間に自然は本来の力を取り戻す。
久しぶりに雲が晴れて青空が見える。
夏らしい雲は見当たらない。
飛行機の音は聞こえるが、姿は見えない。
小さい頃から飛行機の音が苦手だ。爆弾を落とされるんじゃないか、と怖くなる。
来月は終戦記念日だ。ちゃんとそうゆうの考えよう。
やっと見覚えのある道に出た。
生まれた頃から住んでいるのに、
知らない道がたくさんある。
こんなに広い地球に生きているのに
自分が知れる世界なんて所詮手の届く距離でしかないのだと思い知らされた。
どの家も、こぞって洗濯物を干している。
今日ならきっとすぐ乾くだろう。
世の中でどんなに嫌な事件が起きても
消えない不安がずっと心をモヤモヤさせていても、必ず人々の生活は続くし、自然は在り続けるし、季節もちゃんと変わるんだな、と。
うぐいすが鳴いてる。
そう言えばお父さん(祖父)のお墓の周りにでも、うぐいす鳴いていたな。命日だったのにまだお墓詣りに行けていなかった。
今日行ってこようかな。
お墓とか仏壇とか、そんな場所に死者はいるはずないと心の中で思ってはいるけれど
それらは単なるツールでしかなくて
大事なのはちゃんと思い出す事だ。
いろんなこと
忘れないまま年をとりたい。
地球に生きてることとか、1日たりとも忘れない日々を送りたい。
そんなこんなしているらうちに、
家に着いた。
1時間以上歩いていたようだ。
すっかり西日が眩しい。
草むしりをさぼっているばあちゃんの庭は
もはやジャングルになっている。
庭の隅にある犬とウサギの墓が、草で見えなくなってしまった。まぁ、それもそれでいいか。
まだ猫が帰って来ていない。
キミはいつまで生きてくれるかな。
願わくば私と同じ寿命を生きてくれ、と思う。
誰もいない家に戻る。
テレビはまだつけないでおく。
ぬるいお茶を飲む。
あ、猫が帰ってきた。
私の呼びかけに返事をして
傍に座った。
ばあちゃんからも電話がきた。
もうすぐ家に戻ると言う。
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