見出し画像

分娩室は圏外につき。


赤ちゃんが産まれた瞬間に、母は涙する。

オギャーと産声をあげた赤ちゃんを助産師さんが連れてきて、母の隣に顔を近づける。
「かわいい...!生まれてきてくれて、ありがとう......。」
そんなシーンを予想していた。

残念ながら実際は全く違った。


分娩時間も長かったため、疲労困憊でただただ、呆然としてしまった。
生命の誕生の瞬間を、そのときの感情を、嬉しさを、味わい尽くしたいと思っていたから、とても残念に思えた。

以後、こちらの続きです。↓


赤ちゃんは身体のチェックを受けた後、念のため保育器に入れられた。
お産の最後で少し心拍が弱くなっていたので、ちょっと心配だったけれど、産声はあげていたので、なんとなく安心はできた。

助産師さんがやってきて、「赤ちゃんの写真撮ってきましょうか?」と言ってくれた。
預けたスマホで撮ってくれた写真で、初めて我が子の顔をまじまじと目にする。

「おお。こんな顔してたんだ...!」

それが第一印象だった。
自分が予想外に淡白で驚く。
そして予想以上に夫寄りのお顔だ。
胎動は感じていたけど、自分とは別の人間が、本当にお腹の中に存在していたことに改めてびっくりした。

確かに私の身体の一部だったはずなのに、もう、ひとりの人間だ。

たった2枚の写真だったけれど、手、足、顔、お腹....。何時間でも観れる気がした。何ヶ月も一心同体でいたのに、初めて見る姿。なんとも言えない、不思議な感覚だった。


夫と家族に連絡しなければいけない。
昨日の夜から連絡が途絶えているから、心配しているだろう。まずは写真を送ろう...と思ったが、なかなか送れない。

分娩室は圏外だ...。

そうこうしているうちに、産後の処置が終わって、説明のため医師が枕元にきた。

白衣が返り血で赤くなっていた。

赤ちゃんを吸引する際に一回吸引カップがとれて、返り血を浴びていたらしい。 

「す、すみません...!!」

びっくりして咄嗟に謝罪が出た。
出血も多かったらしいから、産んだ直後呆然としてしまったのもそれが原因だったのかもしれない。



その頃、説明もなく赤ちゃんの写真だけがラインで届いた家族は混乱していたらしい。
(送れないと思っていた写真がいつのまにか送られていた。そういうことってありますよね。)

助産師さんからまだ分娩台にいる私に伝言がきた。
「先程、旦那さんから電話がありましたよ。生まれたって連絡してあげてね。」
赤ちゃんの写真だけ送られてきて混乱した夫が病院に電話をしたらしい。
個人情報のため、病院側が出産について電話で回答することはできないらしく、私から夫に連絡をしてくれ、とのことだった。


その後、すぐにラインで出産の報告をしたけれど、“立ち会いができてたらこんなこともなかったのにな...。産まれた瞬間の気持ちを夫と共有したかったな。”と思ってしまった。


車椅子で個室にもどる。
あんなに寝たかったのに、“子を産んだ!私、出産終えた!” と、人生の一大事をひとまず終えることができた興奮と、待ち望んでいた赤ちゃんに会えた嬉しさがじわじわ溢れ出てきて、胸がポッとして寝れない。



しかし、このときのわたしにこう言いたい。

「本番はここからだよ。早く寝て...。」と。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?