東京他人物語「最寄りのラーメン780円」


二人で一度だけ行った、最寄りのラーメン屋。特に思い入れもないはずだけど、しばらく店には入れなかった。地下鉄に乗っているとき、彼はいつも大きい声で喋る。私はいつも少し恥ずかしかったけど、年甲斐もない無邪気さに救われていたんだなと、今更気付く。もう遅い。あれから半年ほど経って、なんとなくラーメン屋に行った。前に注文したラーメンと、おなじものを頼んだ。こんな味だっけなとも思うけど、やっぱり美味しかった。同じ頃、久しぶりに寝た。彼は相変わらず声が大きくて、少し痩せて、そして肌が少し焼けているようだった。働きすぎなんじゃない、と犬みたいな天パをぐしゃぐしゃにしたら、お互い様じゃないと、お酒で肥えた腹の肉をつねられた。ラーメン屋には2回ほど通った。また時が経って、店の前を通ると、シャッターが降りていて、「テナント募集」の貼紙が貼られていた。どうやら潰れてしまったらしい。結構がっかりしたけれど、何故かそんなに悲しくはなかった。単純に、ただ寂しかっただけだ。そういえば、また連絡が来なくなっていた。彼のことは、今日まで忘れていた。

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