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目が合うための散歩

ステイホーム、エンジョイホームが叫ばれはじめた頃、家は大好きだからいくらでも部屋の中ですごせる、余裕だよと思ったのに、それはすぐに無理だとわかった。
家が好きでじっとしているのが苦じゃなかったのは、いつも外に出て気力&体力を消耗して仕事する日々があったからだった。編集者やデザイナー、クライアントがいて出来上がりを相談し、はじめて会う被写体とコミュニケーションを取って撮影する。ある時は作家の自宅、ある時はスタジオで。刺激の多い毎日。

それが無くなっている今、ステイホームだけではバランスが保てず精神が荒れそうなので、ほぼ毎日散歩に出かけて写真を撮っている。
外へ出ると遊ぶ親子、ランニングする人、ウォーキングの夫婦などとすれ違う。私はマスクをつけカメラをたすき掛けして人がいない方へと歩く。
大きな公園や川、徒歩圏内にある行ったことのない駅などをざっくり目的地にして、適当に住宅街を進んで行く。初めての道をキョロキョロしながら気になった方へ歩き風景を探す。それはどんなものかと言えば、心にひっかかってくる風景。歩いていて突然、はっと風景と目が合うような感じがして心が揺れる。それを写真に撮る。

日に照らされた公園の遊具。風になびくビニールの紐。走る電車。いつもそこにある風景が、私が見つめたことで一瞬こちらに目線をよこす。そこで私を待っていたのではもちろんなく、たまたま私がそこを通ったから目が合っただけ。ちょっと見つめ合ったらすぐさようならだけど、少しの間だけ通じ合いましたよね私達。という感覚だ。

出かければ必ずそういう写真が撮れるとは限らない。今日は撮れるんだろうか、明日はどうだろうとはっきりしない気持ちのまま出かけている。
目が合ったと思っても合っていなかったことの方が多い。本気でこれは合ったな!と分かっても、興奮を抑えて淡々と撮ってその場を後にする。そうしないと逃げられそうな気がしてしまう。実際には風景はただそこにあるだけなのに。人物のいい写真が撮れるかどうかもちょっと話が似ている気がするけれど、これはまたいつか書いてみたい。ちなみに今日は、まだ散歩には出かけていない。

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