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夜を楽しく:亡くなったドリス・デイの魅力が満載の、カラフルな夢の世界

Pillow Talk (1959) 原題。

ドリス・デイが97歳で亡くなった。ヒッチコックの『知りすぎていた男』(1956)のリメイク版で、賢い母を演じた彼女が、息子を救出するために歌ったケ・セラ・セラ は、世界中の誰でも知っているようなスタンダードなナンバーになった。

これは大好きな映画だが、ドリス・デイの映画といえば、わたしはピロー・トーク、『夜を楽しく』を思い出す。よくわからない邦題なのだが、ピロー・トークをそのまま訳すわけにもいかなかった、というところ。カラフルなマクラが次々に投げられていくタイトルからして、まいってしまう。


しかし楽しいことは、確かである。何が楽しいかって、全部なのだが、テクニカラーのカラフルな世界に、まず心を奪われる。だいたいドリス・デイのアップからして、完璧なブロンド、青い目にブルーのシャドウ、濃いめのファウンデーションにしっかりチーク、そしてピンクの口紅。


彼女の衣装は、イエロー、グリーン、白などと、とてもはっきりしたきれいな色使いで、ネグリジェはピンク。彼女のアパートは、白を基調に、黄色いソファー、緑のトレイ、ピンク使いのキッチン、クリーム色の壁、ピンクのソファー。赤とか濃い青とか黒とか茶とかグレーなどといった色は、彼女の部屋には、ほとんど使われていない。こんな色使いの部屋に住んでいたら、夢のロマンスが生まれてこないわけがない。

電話線が他人と共用というのも、古き良き?時代を感じる。ドリス・デイとロック・ハドソンが、同じ回線を使っているので、お互いの電話を聞くことができてしまうのだ。ふんだんに使われているスプリット・スクリーンが、とても楽しい。


舞台はニューヨーク。ロック・ハドソンはプレイボーイの作曲家、ドリス・デイはそんな彼の複数の女性との長電話にキレまくっている、デキるインテリア・コーディネーター。寄ってくる男に心はなびかず、ロック・ハドソンに「寝室の問題(bedroom problems)」を指摘され、たしかにそうかも、とも思う。

お互い、電話の声だけ聞いて悪いイメージを持っていたのが、実際に会ってみると、あれあれ、という話。ロック・ハドソンがテキサスの田舎者のふりをしてドリス・デイに近づくという、二重生活(別人演技)ネタが使われている。

ロック・ハドソンは、ゲイだった。もちろんこの時代に、簡単にカミングアウトできるわけがない。偽装結婚をしていたが、かれはAIDSになったことを最初に公表した、スターであった。実際にも二重生活をしていたわけだ。隠れるために産婦人科に入ったり、女性用トイレに入ったりするネタもある。

ドリス・デイとロック・ハドソンはこの映画で共演して仲良くなり、あと二作一緒に出演した。ゲイのプレイボーイだったロック・ハドソンと、絶対に誘惑する男たらしの女などを演ずることはない(この映画の中では可愛く誘惑もしているが、基本の役柄はマジメな女性)、健康的なイメージのドリス・デイが馬があった、というのは、うなずける話である。


本当にこの二人は、見ていてすてきなカップルなのだ。そういうわけで二人ともに性的なギラつきがなく、さわやかでおしゃれ。ジェームズ・スチュアートと一緒の『知りすぎていた男』だと、ドリス・デイはすでに良妻賢母になってしまっている。ハドソンと一緒だと、おしゃれで可愛いのである。お互いがお互いの浴室で電話を取って、別々の浴室で足を合わせているシーンは、その面目躍如たるものだ。

本人はあまりにも健康的なイメージのタイプキャストをいやがっていたというが、ギラギラした女優や歌手の世界にあって、彼女のようなキャラもすてきである。もちろん実際の彼女の内面には、色々な葛藤があったのだろうけれど、あくどさのないルックス(内面の現れ)というのは、この世界では貴重な存在である。

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