「どうしてじぃじは心臓マッサージをしなかったの?」

かんちゃんが言った。


「え……」
わたしは、答えに困った。


………………


父は、亡くなる数日前に
一時帰宅をした。


その際、
担当医の先生から
わたしたち家族はこんなことを言われた。


「ご家庭で、急に病状が悪化してしまった際、
救急車を呼ぶこともあるかと思います。
その時、救急隊員は、詳しい病状を知らないので
間違いなく心臓マッサージをします。
そうすると、骨が折れ、お身体を傷つけることになってしまいます。
ご家族から、
『心臓マッサージはしないでください』
と伝えてください」


そんな説明だった。
その内容にわたしは納得していたし、
もちろん、息を引き取る瞬間も、
医師や看護婦がそれをすることはなかった。


「どうして、じぃじは心臓マッサージをしなかったの?
もしかしたら、また元気になれたかもしれないのに」


息子の疑問に、言葉を詰まらせながら答えた。


「うーん、
じぃじは、もう精一杯頑張って生きたから
心臓マッサージはしなかったんだ」


「え?どうして?
もっと長生き出来て、もっと楽しいことも出来たかもしれないよ。
もっと生きたかったかもしれないよ、じぃじは。」


「かんちゃん。
そうだなぁ……
例えば、事故で急に心臓が止まってしまった人とかは
心臓マッサージをすれば、また元気になれるかもしれない。
でも、じぃじは、生き返っても、元気に生活することは
きっともう出来ないと思うんだ」


「でも、元気に過ごせなくても
生きることは出来るよ。
動けなくても、お話は出来るかもしれないのに。」


「そうだね……
どうして、じぃじは心臓マッサージをしなかったんだろうね……」


わたしは、それ以上答えることが出来なかった。

息子はそれ以上何も聞いてこなかった。


わたしは、息子になんて答えればよかったのだろう。


「じぃじの死は、
人間にとって、ごく自然のもので
灯が消えていくように息を引き取った。
心臓マッサージや、それ以上の治療が
入る隙なんてないし
入ってはいけないんじゃないかな。」


今改めて考えても
こんな答えしか思いつかないな。


あなたの
「もしかしたら、もっと生きられたかもしれない」
「もっと生きたかったかもしれない」
「たとえ、元気な姿に戻れなくても」

そんな真っ直ぐな質問に、
今こうしてパソコンを打つ手も動きが悪くなる。


『癌』『末期』『心臓マッサージ』
こんなキーワードで検索をしてみようかと思ったんだけどね。


何か違うような気がしてね。


もう一度ママも考えてみるよ。


どうして、じぃじは
心臓マッサージをしなかったんだろうね。

ね、かんちゃん。

サポートありがとうございます。東京でライティング講座に参加したいです。きっと才能あふれた都会のオシャレさんがたくさんいて気後れしてしまいそうですが、おばさん頑張ります。