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夏が終わる

この土日でお盆休みが終わる。
下等なる遊民生活を送って久しかった僕だが、意外なことに正真正銘の無職であった期間はほぼなくて、休み休みでこそあれ労働はきちんとしていた。が、なにぶん正規の仕事ではなかったので、年末年始とかお盆とかそういう長期の休みとは無縁で生きてきたのだった。

そこにきて、今年から会社勤めになってしまったので、もったいなくもお盆休みをいただけることになった。期間は10日間。短いようで長いような、いかがなもんなんだろうと思っていたが、とってみるとこれはけっこう長かった。
というか、長期休暇を取りなれていないから、むしろゴールデンウィークくらいの連休で済ませてくれた方が、仕事の感覚を忘れなくて済むのではないかと思うくらいだ。

とはいえ、せっかくの休みなのだから積ン読(という名目だがそんな生易しいレベルではない物量の本)を消化していこうかと思っていたときに、同僚から山登りに誘われた。僕の方が数ヶ月後に入社したので後輩だが、齢は僕の方が1ツ上なので、気の置けない友人みたいに感じている人だ。
アウトドアに興味があるわけではないが、特に予定らしい予定もなかったので、ほぼ二つ返事で同行することにした。福島にある「一切経山」という山である。

山頂の標高は1900mくらい。そう聞くとかなりハードに聞こえるが、車でアクセスするレストハウスの時点で1600mなので、登山難度としては初心者向けらしかった。
レストハウスまでの移動手段は車しかなく、かつては通っていたバスもすでに廃止になってしまったそうだ。僕も同僚もペーパードライバーだったが、思い切って同僚が運転してくれるというので任せることにした。

取得後ほとんど運転していないという同僚だったが、スムーズに山路もこなしていたので感心することしきりだった。僕はぜったいにできない。

不動沢橋

レストハウスに近づくと、「火山性ガス注意」「駐停車禁止」という注意書きが目につき出す。硫化水素系のにおいも感じられ、にわかに視界から植物が少なくなった。


車を止めて、さっそく登りだしてみると日差しがあまりにも鋭かった。高山の植生だからか日影が極端になく、好天に恵まれたこともあって汗が止まらなかった。足元には火山岩がゴロゴロしていて、常に足場を気にかけていないとと危ない。登山に慣れている人とかそれなりに装備を固めていれば容易いのだろうが、こちとら素人なので体力を余計に消耗している感じがずっと続いた。

山頂近くの比較的平坦なエリア。傾斜がきついところは写真を撮る余裕もなかった。

2時間かからないくらいの時間で山頂に到着。てっぺんになにかあるわけではないが、最大の目当てはここからみえる「魔女の瞳」こと五色沼の眺望だった。

写真ではまったく伝わっていないが、眼前に広がる巨大な沼には圧倒された。台風の進路がよくわからないので天気が心配されたけれども、どうにか雨にも降られずに登頂できたのはほんとうに幸いだった。

頂上には10人弱くらいの人しかいなくて、その場で同僚と閑談。1時間くらい景色を楽しんでから下山した。


下ってきて駐車場が見えてきた辺りで、突然、僕のトレッキングシューズのゴム底がパカパカに剥がれてきた。車まではどうにか、と思って片足を引きずっていると、もう片足のも剥がれてきて、けっきょくゴム部分を取り去ってスポンジだけ(といっても並の防御力はある)で残りの道程を歩き終えた。

考えてみると、学生時代にロンドンへ行くに際して買った靴だから、10年間頑張ってくれたことになる。すでに革がボロボロになってはいたが、気に入っていたし、海外へ行くときとか天気が怪しい時などはいつも使っていた。寿命といえば寿命だろう。

しかし、のぼっている最中に壊れていたらと思うとゾッとする。低い山でも登山の準備ってカッチリやらないと危ないわけだけれども、次に登る機会があったら予備の靴は必ず持って行かなくては、と思っている。


2泊して中日に登山をして、ほかには一切なにもしなかった。ただ街をぶらぶらして地方都市の空気感を満喫し、地元のモノを食べてホテルの大浴場で汗を流して帰る、というなんでもないスケジュールだった。

ヒラメと日本酒「會津娘」
メヒカリ
円盤餃子(と塩辛)

僕はこういう計画しない旅が好きなのだが、人と連れ立ってこういう楽しみ方ができるとは思わなかった(旅の構成は同僚による)。話も始終途切れなかったし、気の合う同僚がいるのはありがたいことである。


で、月曜から仕事である。
仕事は嫌じゃないけれども、このだらけ切った感じから抜け出せるのか、一抹の不安がよぎっている。

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