代替趣味としての映画、夏。
狂ったように本を買いあさっていた僕だが、ここ2ヶ月ばかりで古本市へ足を運ばなくなった。
まあ個人的な研究課題はたくさんある(たくさん、というのが厄介だ)ので、全く古本を購わないということはあり得ない。なまじ本を買うことの有効性を知っているものだから、今後いかなる趣味に傾倒しようとも、方向が異なるだけで依然として本は買っていくのだろう。
ともあれ、ふつうの人から見ればやはり異常な量を買っているわけだけれども、古本を漁ることの享楽は少なくなった。
で、その分浮いた時間というか休日があるわけだが、ここで何もしないというのは性格上できないので、代わりに映画を観るように心がけている。
いや別に映画でなくたって構わないのだが、それなりに興味を持っている娯楽のうち、比較的取り組むのに体力を使わないから選んだというだけの話である。(ここで読書を選べないというのが、僕が偉くなれない理由を端的に示している)
ここ2ヶ月で観た映画を挙げると以下のようになる。"〇"は映画館で観たもの、それ以外はアマプラを始めとする配信で観たものである。
・ONE PIECE オマツリ男爵と秘密の島 (2005)
・サマーウォーズ (2009)
・未来のミライ (2018)
〇竜とそばかすの姫 (2021)
・トイ・ストーリー (1995)
・トイ・ストーリー2 (1999)
・ジャングル・ブック (1967)
・地獄 (1999) *監督:石井輝男
・響 (2018)
・遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS (2016)
〇ヒロアカ THE MOVIE WORLD HEROES' MISSION (2021)
〇きんいろモザイク Thank You!! (2021)
ディズニーチャンネルまで導入した割に、短編ばかりをこなしていて長編作品をあまり観られていないのは反省したいところである。そもそも、映画を観る頻度じたいをもう少し上げてもいいのではないか。
見ての通り、リストの頭の方はすべて細田守作品。最新作『竜とそばかすの姫』を観るに際して、まあいちおう一通りは観ておこうという算段であった。
そもそも、僕はどちらかというと細田作品がピンときていないクチだった。『サマーウォーズ』を最初に観たのは2010年8月のテレビ放送でのことだったと思うが、周りで絶賛する同級生が多い割に「こんなもんか」という程度の感想しか抱かなかった。今思うと、本職の声優でない人選が多いのに少なからぬ抵抗を覚えていたのだろう。
その後、2013年に同じくテレビで『おおかみこども』を観、2016年にフィリピンのイベントで『バケモノの子』を観た。この2つはそれぞれ面白い作品だと思った。
僕はわりと大学に入ってから「作品」を読むことができるようになった感じがあるので、それ以前に観た『サマーウォーズ』はきちんと観賞できたとは言えないのではないか。そう思って10年ぶりに観返してみた次第である。
結果、『サマーウォーズ』は名作であった。
今なら毎年夏に放送されている理由がわかる。というか、ストーリーをほぼ覚えていなかったことから察するに、たぶん10年前の放送時は何か別のことをしながら片手間にでも観ていたのだろう。それで「イマイチ」という評価を下していたのだから恐ろしいことである。
で、次いで観た『オマツリ男爵』は、ダークめなファンタジーとしてはよくできていると思うのだが、いかんせんワンピース感というかキャラクターのよさが引き出し切れていない。ネットにも「麦わらの一味がこんなこと言う/するわけない!」という評価があり、僕としても同意できる部分はあった。言うなれば「ワンピースの映画」ではなく、「細田作品」になってしまっているということか。
『未来のミライ』は、前評判があまりよくなかったが、そんなに悪くないと思う。主人公はイヤイヤ期から抜け切れていない4歳児の「くんちゃん」で、妹が生まれたことにより不満を募らせる描写が妙にリアルだから、たぶんそのあたりにイライラさせられる観客が多いのだろう。
連発する超自然的現象は、実際の体験なのか幼児特有の荒唐無稽なイマジネーションの賜物なのか、はっきりとは判別できないが、それらを通じてくんちゃんが成長していくさまはよく描かれていた。ファンタジーと幼児の成長譚とのハイブリッドとして観ることができるかと思う。
で、最新作『竜とそばかすの姫』だが、正直言うとこれまでの細田作品の中だと一番まとまりにかける印象である。
(ここからはちょっとネタバレ気味)
『サマーウォーズ』でも登場したような電脳世界が今作にも登場するのだが、ヴァーチャルと現実とのリンクが『サマーウォーズ』ほど強くない。『サマーウォーズ』では、"OZ"における混乱はほぼイコール現実での混乱に結び付き、だからこそ"OZ"世界(およびプログラムとしての介入)での活躍が光っていたわけだが、今作ではそこまでの重要性を感じない。
また、『サマーウォーズ』ではどちらかというと人との繋がりや関係性の部分にフィーチャーしていた一方、今作では比較的主人公すずの心情の方に重きを置いているように思える。しかしその割には、すずの生い立ちが描き切れておらず、行動原理がつかめない場面も多かった。共感できない、という言い方をすると視野の狭さを露呈させるようで嫌だが、「なぜそこまでしてこの人を助けようと思えるのか」という動機が僕にはあまりわからなかった。
まあ、そもそも要素を盛り過ぎているのかなぁという気もする。ストーリーの大筋を追えばふつうに面白い映画だとは思う。思うのだが、ヴァーチャル世界、現実での恋模様、すずの過去、最後に明かされる事件の真相等々、詰め込んだ割には消化不良気味で、焦点が定まっていないように思えてしまった。
ネット上での評判を流してみると、「この事件についてこの対応は現実にはあり得ない」というような意見が多く見られたが、僕はこの点については気にならなかった。第一フィクションだし、多少のご都合主義は楽しまなくては損というものではないか。
一方で、言うまでもないことだが、映像や音楽の質は非常に高い。僕が観たのは地元の映画館の一番いいスクリーンだったこともあり、このあたりを存分に堪能できたのはよかった。単純に「アニメーション」の出来ということで言えばかなりの傑作だと思う。
が、それだけにストーリーへの不満は厳然と残る。逆に言えば過去の作品――それこそ『サマーウォーズ』なんかを観て新作を待っていた人とか、予告の映像美から気になった人とかは、抱く期待が強すぎるのかもしれない。
周りに観た人がいないので感想を聞けないのが少し残念ではある。
ディズニーについては稿を改めたいので措くとして、『ヒロアカ』もすごくよかった。作画ボンズの面目躍如は言うに及ばず、吉沢亮がめちゃくちゃいい声の演技をするのに驚いた。あとこれは旧作の実写映画だが『響』も面白かった。原作は未読なので再現度は分からないけれども、主演の平手友梨奈が実にいい味を出している。題材が文学賞というのも個人的には興味深いところであった。
しかしアニメばっか観てるなぁ。それじたい悪いとは思わないけど、もっといろんな作品を観たい欲求はあるので、徐々にでも数をこなす体力をつけたいものだ。
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