金沢紀行1日目~鏡花・秋声~
ふと思い立って、単身で金沢へ繰り出した。未踏の地である。
別段とくべつな用事があるでもなかったが、いつか行ってみたい街だったし、こういう思い付きを活かさないと「われ遂に富士に登らず老いにけり」となりかねない。
ということで、余りまくっている有給とGWを利用して2泊3日(5/1-5/3)の旅程ででかけてきた。
飛行機で移動
安かったから飛行機移動にしてみたが、僕は飛行機がめちゃくちゃ嫌いだ。乗るときは常に落ちるものと思ってかかっているため、心理的な負担は計り知れない。離陸の時はいつも固く目を閉じて、震えながらアームレストにしがみついている。
ただし今回の飛行時間はおおよそ1時間、前後15分は上昇・降下だとして、機内で過ごす時間は実質30分とかそこらだから、なんとか耐えきることができた。アメリカとかヨーロッパとかだとそうもいかないから、なかなか足が伸びなくていけない。
小松空港ー(バス)→小松駅ー(電車)→金沢駅、という経路で市街地へ向かったが、金沢行の電車が想定外に少なくて困った。なんと通勤時間以外は1時間に2本しかない。東京育ちの僕からすればありえない本数である。
①泉鏡花記念館
で、金沢駅に到着。さっそく徒歩で向かうのは泉鏡花記念館だ。
ふつうはバスかなんかで行くのだろうが、僕は知らない街を歩くことこそが旅の醍醐味だと思っているので、30分とか40分くらいの道程ならば徒歩を選ぶことにしている。健脚なのを幸いに、写真をたくさんとりながら歩を進めるのは非常に楽しい。
さて、鏡花記念館で今回実施していたのは「新聞原紙で読む『山海評判記』」。能登を舞台にした作品を、当時の新聞の紙面を展示のうえ解説したもので、やはり小村雪岱の挿絵にもかなり比重が置かれていた。挿絵それじたいの構図だけではなく、配置の工夫なんかを見ても雪岱のこだわりを感じる処であった。
ところで僕は本作が残念ながら未読。というのも、そもそも鏡花の生前からして単行本にはなっておらず、新聞以外では全集くらいしか読む手段がなかった(はず)。近年はちくま文庫が出されたが絶版。また国書刊行会から出たバージョンは件の雪岱挿絵もすべて収録しているらしいが定価1万5千円オーバーとあって、情けなくも手元にテキストすら用意できないまま展覧会に来てしまったのだった。
で、今回その作品の魅力とか挿絵のパワーを体感したので、どうせなら国書版で読みたいと思ったりもするのだが、平成の本に万を払う気力もないのが悩みどころである。とりあえずちくま文庫を探して読むとするか。
そういえば、この時たまたま新聞社の人が取材にきていて、観覧客のひとりである僕もインタビューを受けたのだが、能登に対しての思い入れがあるわけでもなし、単なるコレクター・文学好きのコメントが「使える」とは思えない(残念ながら文学に明るそうな記者でもなかった)から気の毒なことであった。
②徳田秋聲記念館
徳田秋声(変換が面倒なので以下新字)なんて、国文卒でもどれだけ読んでいるかわかったものではない。文学史上重要な人物にもかかわらず、作品数が少ないわけでもないのになかなか読まれてこなかった作家のひとりだと思う。かくいう僕とてそんなに真面目に読んでいる方ではない。
この風向きが変わったのは、やっぱり「文豪とアルケミスト」かなあと思う。若者向けのメディアであるところのスマホゲームに初期キャラのひとりとして登場した後に知名度が伸び、プレイヤーのうち何パーセントかが実作を読み、うち何パーセントかがファンになり、さらに一部は古本を買うようになった、という流れがあったものと感じている。
で、いまやっている企画展は「レコオドと私」で、秋声が愛聴したレコードと作品とを結びつけた展示で、けっこう面白かった。そもそも常設展からしてかなり勉強になったし、秋声の作品において音楽が重要なアイテムとして登場してくることを認識していなかった。ただただ不勉強を恥じるばかりである。
翌日は室生犀星記念館にも訪うのだが、金沢三文豪の記念館のなかで、一番勉強になったのは秋声記念館であったと思う。ワークシートがあってそれに真面目に取り組んだからというのもあるのだが、単純に秋声の経歴が面白いとか、展示が工夫されているとかいうこともあるのかもしれない。秋声の本はそれなりに家蔵しているので、いろいろと読んでみたいといまは思っている。
夜
飛行機の疲れもあって、夕方ホテルにチェックインするとへとへとであった。が、そんなゴロゴロするのは性に合わないので、地元のスーパーを見学したりそこらを散歩したりして過ごした。
晩御飯には海鮮でも食べようと思ったのだが、有名な近江町市場は完全に海外の観光客向けで値段もインバウンド価格と見えたので断念。もう少しお手軽な店で頂いた。
ひとりで旅行すると予定を詰めすぎていけない。とても疲れるのだが、非常に充実するのでスタイルとして改めようとは思わない。
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