【1分で読める小説】 その6 父の鉛筆線
「道雄、今日は泊まっていきんさいね」母の勧めに僕は「チャッチャと片づけてすぐ東京に戻るよ」と返事した。父の遺品整理を頼まれたのだ。勘当同然で家を飛び出して以来、帰省は9年ぶりだった。冷徹な科学者らしく、父は遺影まで真面目くさった顔で写っていた。
二階の書斎には煙草の匂いが染みついていた。どの本にも几帳面に鉛筆で傍線を引きながら読んだ形跡がある。「おや、この本は」姓名判断?占いなど信じない父にしては珍しい。何度も開いたようなページが一箇所だけあり、そこにも線はあった。しっかり