この物語は誰にでも通ずる
「石とシャーデンフロイデ」
シャーデンフロイデという単語をこの映画で知る。単刀直入に言えば「人の不幸は蜜の味」だがあらかさまに嗤い蔑んでいる響きではないことが、人物たちの表情、仕草から察せられる。
人の失敗、苦い思い出、境遇を不憫に思ったり、蔑んだり、哀れむ思いというのはどんな人間にもあり得る。己自身にも他人にも取り巻く失敗、苦い思い出、境遇に対していつしか言い訳をするようになる。そのことにも気付き受け容れた時、その人はほんの少し、されども前に進めているのではないだろうか。
登場人物ひとりひとりの群像劇が流れていく100分にそのことが散りばめられていた。
大きな事件、人生観を覆すような出来事は一切起こらない。淡々と日常が流れていく。そのなかで感情の機微の精密さ、他人と触れた時に生ずる温もりの繊細さに感嘆の唸りを上げていた。
上映後の白磯監督と主演の三村和敬さんの対談にて、御二方の思いが観客に伝わっていることが察せられて心がまた温かくなる。
登場人物一人ひとりが愛おしく、人肌の温もりのようにこの映画が多くの人々に触れていくことを願う作品であり、己にとって出会えてよかった大事な作品となった。