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第5話|勝手に伸びるものを支える|編集者/bootopia代表|瀬下翔太

仕事で知り合った編集者の瀬下さんは、「Rhetorica」という批評雑誌をつくったり、様々な編集執筆活動をする一方、島根県の津和野で高校生向けの教育型下宿「bootopia」を運営しているらしい。そのベースには高校生向けの「島根留学」という枠組みがあるらしい。高校生の下宿と島根留学。気になる。思春期および反抗期の、子どもと大人のあいまにある存在をまとめて預かるってどういう仕事なんだろう。

これはたぶん、社会による子(人?)育ての話。

2020.05.18 ⇄ 島根


−今どうですか?

学校が普通に動き始めたので、高校生たちはこれまでとさほど変わらない日常を過ごしてます。閉校中やGWは、畑耕したりとか、密にならずにできることがたくさんあったのは良かったです。ただ基本在宅ってのはやっぱりストレスにはなるから、過度な自粛はできるだけしたくないのが正直なところですね。

下宿は他のスタッフもいるので、僕は日中は主に編集の仕事をしてるんですが、テレワークでできることの可能性が広がって良いこともあって、とはいえ都市部に行けないのはやっぱりマイナスだよなっていう、そんな感じです。

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写真2列目一番左が瀬下さん

bootopiaと「島根留学」

−bootopiaに入ってくる高校生はどんな子たちなんですか?

今年で4代目なんで、ちょっとずつ変化はありつつ、半分は地域で何かやりたい目的意識のある子、半分はなんとなく良さそうとか、bootopia面白そうとかっていう子ですかね。関東の都市部からの子がほとんどです。

明確にやりたいことがあった子には、放置竹林を借りて管理しはじめた子がいました。あとすごく自然児で狩猟が好きで蛇をとって揚げて食べたりって子とか。いわゆる学校の成績がかなりいい子もいて、その子は自主プロジェクトをやりたくて、都会だとできる子がたくさんいるから、もう少し個として大切にされたいとかって。

−高校生になった時点でそこまで言語化できる子もいるんですね。

そうですね、その子は特にそうでしたね。

島根を目指してというより、都会が嫌でって子が多いですかね。あとは島根留学がある程度認知されてるので、公立で特色ある教育をという親の意向もあります。大学や就職と違って、住まいと高校が一体的に選ばれてます。ここでこういう生活ができるなら良さそう、と。僕も高校の説明会にも行きます。

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−まず、「島根留学」って大きな枠組みがあるわけですよね。
それはどういうものなんですか?

少子化で高校に通う人数が減って、統廃合で学校がなくなってしまう危機感から、県外から入学希望者を募ることが2010年くらいからはじまったんです。隠岐の島の学校ではじまって、県全体に展開して、さらに今は「地域未来留学」って名前で、島根型モデルとして全国に普及してます。

島根ってもともと、学区内でも高校までの距離が遠いとか、雪が降るとすぐ電車が止まるとかで、県営の寮がたくさんあったんです。それを県外入学者の受け入れに転用したんですね。

bootopiaにいる子どもたちが通う津和野高校では、地域活動をする部活動があったり、生徒が自分たちで地域未来留学の合同会議を仕切ったり、主体的な学び、いわゆるアクティブラーニングが積極的に展開されてます。

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−なるほど。わたしは就職時から地方に行って、プレイヤーがたくさんいる都会だとできなかっただろう色んな経験ができた実感があるんですけど、高校生からそれができるってことなのかも。個として大事にされる感覚もわかります。

bootopiaの「教育型下宿」っていうのは?

他にいいようなくて教育型って言ってるんですけど…教えるってよりは、何かやりたい子のやりたいことを支える感じです。あと、フリーペーパーとか情報媒体をつくったり。受験指導はかなりしっかりやってますね。

僕は埼玉出身で大学卒業後は都内で働いてたんですが、人の繋がりで2015年に移住してきました。はじめは地域おこし協力隊の枠組みで町営の塾や高校の募集支援の仕事をしながら、2年半で独立して、bootopiaを立ち上げて。組織で働くのが苦手なので、起業しました。

人数は初年度から5人〜7人で推移してるんですが、今年は3人です。今後の事業展開を少し迷っていて、受け入れ人数を少なくしてます。受け入れたら卒業まで面倒みたいので。このまま下宿でやるか、違う形にするか、考え中です。

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観光地でもある津和野
boobopiaはビジネス旅館の隣の使われなくなった建物を利用している


高校生の味方になる、変わった大人でいる

−高校生っていう多感な時期の子どもを預かるって、管理責任的な難しさが色々ある気がします。だから高校生向けの下宿をやるって凄いなと思って。

そこ大事なポイントですね。責任はとるよって支えていれば、特別なカリキュラムがなくても勝手に伸びてく感じがあるんですよ。街の大人も助けてくれる雰囲気があって、竹林貸してくるのもそうだし。

あとは僕が一緒にいれば保護者同伴になるから、たとえば地域のお祭りや、何かの会議が白熱して長引いた時に、終わりまでいられる。そこも大きいんです、子どもは夜になったら帰りなさいだと学べないこともあるから。怒られたら僕が謝るっていう。

−そういう大人がいてくれるのはめちゃくちゃいいですね。子どもは夜がダメなんですよね。そうなると嘘つく選択肢もあって逆に危なかったり。そうやって伸び伸びさせてくれる、信頼されてる実感があると問題は起きにくいのかもしれない。

思春期ならではのトラブルもあったりするけど、大人や社会の壁にぶつかる時、たとえ失敗するのでも、一人でも味方になってくれた大人がいたら、いないのとはその先が違うと思うんです。だから僕はそういうとき味方でいたくて。僕の立場だと、そういう、ちょっと変わった大人でいられる。

−それは…いいですね。そういう人と出会いたいですね、高校生は。

面白いのは学校じゃない、先生じゃないことの強みですかね。学校だと親御さんと対等に言い合うとかは難しい。僕はたとえば進路指導では、かなりしっかり親御さんとやりとりします。

親子だけの話し合いだと平行線で、うまくお互いの想いを伝えあえないまま願書提出のタイムリミットが来ちゃったりする。そこで僕が親御さんと生徒それぞれと話して、わだかまりを解決することで、はじめて具体的な大学選びの話ができることもあったりします。

−たしかに、親子だけだと辿り着けないことってけっこうありそう。高校生の時ってほとんどがそうかも…親以外の大人との関わりが重要な時期ですね。

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地域活動のところでは、育てようって気持ちで関わってくれる大人がすごく多いんです。高校もすごく積極的に子どもの活動を支えてる。ただ受験指導が弱い感じがあるので、僕はそこをかなり重点的にやってますね。地域活動からのAO入試出願の子も多いですよ。

−進路はどういう感じなんですか?

難関国立大に行く子もいれば、専門の子もいるし、私大のすごく特色ある学部にいく子もいたり、それぞれです。

−(大学の固有名詞で教えてもらう)おー、受験業界的な意味での成果も。bootopiaでの生活が子ども達にとって良い時間になってる感じはありますか?

そうですね。学校全体でもそうだと思うし、うちに関しても、学校が嫌になっちゃったとか関係が悪くなったとかは一人もいないです。

成長に繋がってそうな具体例でいうと、たとえば狩猟の子に関しては、入ってきたときは人と協調したいけどできない感じがあったのが、はっきり人と活動できるようになりました。

僕は子ども扱いしないで、普通につきあうようにしてます。普通に個人になってここを出ていってほしい。

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津和野は日本における哲学の父といわれる西周の出身地でもある
瀬下さんのデザイン・編集ユニットdesign alternative制作のポスター

都会とのフラットな関係、「シーン」のリアリティ

−瀬下さんと暮らせた高校生はラッキーって感じします。学生時代から、今の仕事をしてるイメージってありました?

教育に携わりたいとはずっと思ってました。大学時代には心理学のなかの教育よりのゼミに入ってたり、ジョン・デューイが好きで、人が成長するどこかの段階をサポートしたいのがあって。

で、中高大学くらいがいいと。葛藤がある状態の人と関わりたいんですね。僕がそういうタイプなんで。ただ悩みつつも、職業的にポジティブな結論を出さざるを得ない。で、結果、僕自身もポジティブになってるみたいな、自分が得られるものも大きいです。互恵関係ですね。

−高校生は、瀬下さんがやってる雑誌づくりとか、編集の仕事への興味は示してきますか?

どう思ってるかは正直わからないんですけど。笑。最近では大学生になった竹林の子から、自宅にずっといるからzineをつくってまとめたいって連絡きましたね。そういう仕事の人って認識はされてるみたい。

−地方って、自然は豊かだし伝統文化も素晴らしいものがたくさんあるけど、文化資本的に弱いところはありますよね。本屋、映画館、ライブハウス、劇場…今は地方ならではの良い場もたくさんあるけど、都会に比べたら絶対数は少ない。そういうものって可能性を広げたり、価値観を自由にしたりするから、興味を持つかは自由だけど、あるんだってことは知らせたい気がします。だから、あの人雑誌つくってたなって、雑誌はつくるものって無意識に刷り込まれるのはいいですね。

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地方では人がたくさん集まることで生まれるもの、いわゆる「シーン」的なものには触れにくいですよね。

そこで都会から来た自分が、大事な役割を果たすとも思っていて。

下宿生と大学見学で東京に行く時は、いい感じの喫茶店で、そこで暮らしてる友人も交えて話したりします。「いい感じ」てのがポイントで、ごく自然に都会のリアリティを感じてもらいたいっていう。

地方にも都会にも行ける、自由な感じを持ってほしいし、いろんな場所に案内してくれる人がいるのもいい。

いろんなライフスタイルがあることを知って、何に対してもフラットに接せられるようになってほしいから、真面目な人やチャラチャラした人やマイノリティとされる人、いろんな大人を呼んだり。

−レジリエンス、みたいなことですかね。今の子どもたちはコロナ世代って呼ばれるようになるのかもしれない、さらにこの先何があるかわからない、そこでやってくたくましさって意味でも。

そうでです、そうです。どこに住んでも何しても楽しめるみたいな。

あと、島根留学に来る子にはいわゆるオタクみたいな子もけっこういるんですね。そういう子には特に、自分の好きなコンンテンツも誰かがつくってて、その人たちが生み出す「シーン」ていうものがあるって、知ってほしい。

自分がのめり込んでやまないものも、「誰かがつくっている」もの。そこにリアリティを感じられると、一歩前進すると思うんですよね。つくり手になる可能性も生まれる。

僕は、そのリアリティを感じてもらうことを手伝いたい。結論めいたものとしてはそこですかね。

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瀬下翔太(せしも・しょうた)https://note.com/seshiapple
1991年埼玉県生まれ。編集者・ディレクター。
NPO法人bootopia代表理事。慶應義塾大学環境情報学部卒業。
批評とメディアの運動体「Rhetorica」、国内外のオルタナティブなデザイン事例を紹介するマガジン「design alternatives」の企画・編集を行う。2015年に島根県鹿足郡津和野町に移住。
町内唯一の高校・島根県立津和野高校に通う生徒を対象とする
教育型下宿を運営。

NPO法人ブートピア https://bootopia.org/
Rhetorica http://rhetorica.jp/
design alternatives https://scrapbox.io/design-alternatives/


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