沖浦和光『新装版 竹の民俗誌ーー日本文化の深層を探る』
全国の被差別部落を数多くフィールドワークした研究者による本で、南島文化と隼人との関わり、および、竹細工の歴史を探るのを主眼としている。
隼人も、竹細工に関わった人々も、いずれも虐げられた人々であった。隼人は南方系の人びとであり、ヤマト王権成立以前に日本に先住していたが、ヤマト王権に征服された。隼人が住んでいた南九州には、南太平洋とよく似た竹用品や竹に関する習俗が今も残る。
竹細工は、土地を持たず、租税を納めることができなかった貧しい者の仕事だった。たとえば、『竹取物語』の翁も、竹を切る貧しい老人であった。竹細工を生業とする被差別部落も多くあった。被差別部落とのつながりから、恥ずかしい仕事だとみなす風潮もあったという。
竹細工と言えば、日本の誇るべき伝統工芸とされているはずである。それを見る眼差しに、差別的なものが含まれている可能性は考えたことはなかった。かつてどのような立場の人々が従事していた(せざるを得なかった)のか、公的な歴史で詳しく語られることがないような伝統文化は他にも多くありそうだ。
『江戸絵画の不都合な真実』でも、写楽が正体を隠したのは、武家身分が歌舞伎役者という被差別民を絵に描いていることを知られるのはご法度だったからだ、というエピソードがあった。日本庭園も、山水河原者が深く関わっている。日本文化をよく知るには、被差別民の歴史を避けて通ることは出来ないのだろう。
ガイドをするときに披露できそうな話としては、竹の文化が東南アジア、太平洋地域に深い縁があるということだろう。イギリス人などは、日本のことはよく知らなくても、東南アジアにはよく行っていると言う人もいる。そういう人にとっては、竹を通じた繋がりの話をすることで日本への親近感も増すし、それをきっかけによく知らない東南アジアの風物について話してもらえるかもしれない。日本での体験を、どれだけお客さんの個人的な体験と結びつけてもらえるかが、ガイドの成功を左右する。