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今こそ見直したい ブランド価値を高める実店舗の魅力

社会が豊かになり、モノの所有から「体験」を重視した時間の消費へ消費スタイルが変化しています。それに伴い、ブランド体験を重視したフラグシップショップの運営に力を入れる企業が増えています。なかには自社のこだわりや伝統を発信するため、歴史的建造物特有の設えや趣を活かして事業価値を高める空間づくりを実現している店舗も増えています。一方で、古い建物は修繕や改築、耐震補強も必要となり、管理・維持には大きなコストがかかるもの。収益性の観点で捉えると費用対効果のある空間でなくてはいけません。

建物の魅力を引き出し、ブランド価値を醸成する場として歴史と伝統を未来へ紡ぐ――。老舗酒蔵の再生を中心に、約20年にわたって事業者の歴史的建造物の改修に携わってきた槌野 磨(つちの おさむ)氏に、消費者との絆を深める空間デザインについて伺いました。

⒈ 土地に根付く文化・時代背景を蘇らせる

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建物の潜在的な価値を引き出すため、最初に着目するのは、その「原点」。どんな時代に、どのような目的でつくられ、どのような存在だったのか?槌野氏の仕事は、オーナーへの細やかなヒアリングからはじまります。「かつてこの地がどんな場所だったのか、昔はどんな様子だったのか。建物が最も輝いていた時代に遡って、動線や空間の使われ方を紐解いていきます。新しく作り変えるのではなく、これまでの営みに耳を傾け、本来の姿に戻していく作業に近いかもしれません」。

紡がれてきた歴史の代弁者として、その場所に宿る歴史を引き出す。表面的なアレンジや装飾ではなく、本来の姿・魅力を活かすデザイン・意匠に。「改修したとは思えない、昔からこうだったように感じる」建物は、オーナーと膝を突き合わせ、じっくりとその言葉に耳を傾けることによって土台がつくられていくのです。

⒉ 歴史と伝統を「らしさ」に変換

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建物の全盛期の姿を蘇らせることに続いて重要なのは、その歴史や背景を分かりやすく伝えること。訪れた人に「どのように感じてもらいたいのか」から逆算し、入り口からの動線に沿って、顧客体験を設計していきます。たとえば、立派な梁が渡る吹き抜けもそんな仕掛けのひとつ。思わず見上げてしまう壮大な吹き抜けが、その迫力を通して企業の歴史や伝統を伝えます。

そこに身を置くだけで五感が刺激される空間と、商品の魅力を掛け合わせることもまた、空間デザイナーの腕の見せ所。「ブランドとは、一貫した『らしさ』です。どの角度から見ても商品から『らしさ』が感じ取れるよう、ディスプレイや照明など、魅せる工夫をいくつも重ね、細部まで作り込んでいきます」。どんな順序で、何をどのように見せるのか。それらが緻密に計算された空間は、商品を引き立てる舞台のようなもの。「この商品を、企業を、もっと知りたい!」というお客様の気持ちをかきたてます。

過去・現在・未来をデザインで繋ぐ

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事業を守り受継ぐということは、歴史や先人たちの営み・想いを次の世代へ語り継ぐこと。それには、今を生き、未来へ繋いでいこうとするオーナーの想いを反映し、企業としての未来を描くことが不可欠です。建物の改修は、長期的な経営方針や事業構想と一貫していなければいけないのです。

リノベーションの目的が、新しい顧客層の獲得なのか、既存顧客との関係を深化させることなのか、商品力を高めることなのか。その狙いによって、建物が担うべき機能も変わってきます。新規顧客の獲得であれば、認知を得るための情報発信がまずは重要になり、既存客との関係深化を狙うのであれば、お客様との接点を重視したイベントの場をつくることが求められます。心を掴み関係を深める体験を提供することによって商品力を高めるなど、事業の構想によって、改修の目的も、建物に求められる機能も、千差万別。

今日までの長い歴史を未来に向けて繋いでいく店舗・事業所の改修は、見え方だけを切り取って考える空間デザインでは実現できません。オーナーの思いに寄り添い、事業全体を俯瞰した戦略的な舞台設計が不可欠なのです。

さいごに

ビジネスにおける建物の改装は、収益を生むことが大前提。古いものを美しく整える、お洒落に見せる、見栄えの良いものをつくることではなく、場所に宿る歴史や伝統を活かして事業価値を高めることが本来の利活用です。訪れることで得られる体験に価値を見出し、「行ってみたくなる建物」、「人に伝えたくなる建物」に。

建物改修の成功の鍵は、体験そのもの。建物はそのためのコミュニケーションツール。場所に息づく唯一無二の物語を発信し、一貫性のある「らしさ」を表現することが、槌野のこだわりです。

もしご興味をお持ちいただけましたら、下記サイトより実績などもご覧ください。