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愛のりんご

1週間ごとにテーマをかえてエッセイを綴る試み、今週はテーマ「手のひらサイズ」です。今日は5日目で「愛のりんご」です。

______________________________go!


りんごは、旬の季節になると毎年送られてきていたんだ。
けど、今年からはもう送られてこない。

りんご農園のおばあちゃんが歳をとってりんご農園をしめてしまったから。
おばあちゃんが育てるりんごを友達のお母さんの凛子さん(仮名)が毎年送ってくれていた。

友達とは看護学校からの付き合いで、もう20年も付き合ってるのか。
夫婦より長い。あれやこれや恥ずかしいそれも知っている友達だ。
最近はもっぱら呪術廻戦の話ばっかりしている。お願いだ、銀魂を観てくれ!銀魂の話がしたいんだ!そう言い続けている。全然見てくれない。

話を戻そう。

このりんごは岩手のりんごだ。
東京のスーパーで買うりんごのどれより美味しい。

凛子さんは今年は出来がイマイチかもといつも手紙を添えて送ってくれたけど、いつもそんなことはなくていつもおいしかった。

東京で買うりんごがまずいわけじゃない。もちろん美味しいと思って食べている。それでも岩手の送ってくれるりんごは全然違って本当においしかった。

毎年、その時期になると、ダンボールがひとつ送られてくる。
宛名が凛子さんなのを確認するとりんごだと思い、娘と一緒に開けるのが毎年のお決まりのイベントだった。

娘はりんごの梱包している段ボールのガムテープをいつも剥がしたがる。わたしはスマホを片手に動画を撮る。別に誰にお願いされているわけでもなくて、喜ぶ子どもの顔くらい届けたいと、開ける作業とりんごを取り出してワイワイするシーンは必ず収めた。そしてお礼の手紙と、開封と最初のりんごを食べる動画を送る。毎年のお約束だった。

りんごは、開けると赤く色づいていて、テリッとした光沢をまとった姿を見せてくれる。それと同時に甘い香りがフワーッとして、持ち上げると、手に加わる重みで、中身の詰まってことを感じさせた。大小も問わず、その姿はどれも愛おしい。凛子さんと見知らぬおばあちゃんの、子どもの赤いほっぺみたいなりんごの赤と、おんなじ赤い愛を感じた。

切るとシャキッとしていてみずみずしく、中心に蜜が溜まっているのがわかる。ひとくち頬張ると硬めの食感でシャッキリしている。爽やかで甘い香りが鼻に抜けるし、ふくよかな甘みと酸味があるのにスッキリとした味わいが舌に広がる。まるでりんごのジュースを飲んでいるようなみずみずしさがある。食べたら元気になれる、愛の味。

いつも全部食べるぞ!と意気込むものの、ダンボールいっぱいは、新鮮なうちには食べきれなくて、近所のお世話になっているおばちゃんにお裾分けする。
おばちゃんとももう10年くらいの付き合いで、元住んでいたマンションのおむかいさん。出産した時には、お乳が出るようにと、田舎からたくさん送ってくれるという、さつまいもをふかしてバターと小豆を加えて固めたあっさりしたスイートポテト?あっさりした味の羊羹?のようなお芋のお菓子を作ってくれたのが始まりで、それ以来、りんごを届けるとお礼にとこれを作ってくれた。
これがまた美味しくて、愛の味がする。実はこっそり、毎年楽しみにしていた。

会社の同僚と話している時、健康のためにしていることの話になって、健康のためではないけど、りんごはこの時期毎年食べていた。田舎のお母さんが送ってくれていたから。お母さんも死んでから届かなくなった。寂しいもんだと思ったよと話していた。

それでわたしも思い出したんだ。
ああ、そういえばうちも今年はりんごが届かない。

今年は、そうか、りんごにまつわる一連の全てがないのか。

りんご農家の顔も知らないおばあちゃんは元気にしているだろうか。

愛は知らないうちに受け取っている。無限に溢れる泉の如くまるで貪るように浴びるように恩恵に気づかず受け取っていた。
ありがたさは感じていたけれど、なくなるとそれは大きな大きなものだったとわかる。

おばあちゃんが毎日世話をしてなったひとつひとつのりんご、凛子さんが買いに行って選んでくれて、梱包して送ってくれて、わたしの目の前に姿を現したりんご、それをいただけるありがたさ。

いや、正直気づいていなかったな。ごめんなさい。
やったー!今年もりんごきた、わーい!くらいのテンションで。

今年はわたしから送ろう。何がいいかな。凛子さん。
おばあちゃんには何がいいかな。

寒い東北の冬、元気に過ごしてね。





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