木曜日のひとり旅
ガイドブックを見ていて、今週は神楽坂を散策しようと思った。
目的は、カフェ「ル・ブルターニュ」でガレットを食べることだった。
恐らく2009年公開の、
岡田准一と麻生久美子が共演したラブロマンス映画「おと・な・り」の影響だろうと思う。
その映画の中で、ガレットを作るシーンだったか食べるシーンだったか忘れたが、とにかく「ガレット」が出てきた。
ガレットというのは、フランスブルターニュ地方の伝統料理で、そば粉で作られたクレープの上に野菜や肉、魚介類がトッピングされたものだ。
その頃、私は東京らしくない場所を巡る旅を毎週木曜日に実行していた。
なぜ木曜日なのかというと、週に一度の休みが定休制になっていて、私は木曜日になっていたからだ。
その前の週は、目黒駅から目と鼻の先にある自然教育園というところに行った。
雨上がりだったこともあり、入場してすぐの泥の道にはうんざりしたが、整えられた庭園を散策するうちに心地良さを味わっていた。どこからともなく、ヒグラシの鳴き声が聞こえてきて、別世界にいるような気分になった。
東京で自然に触れることの虜になってしまい、次は「等々力渓谷」にしようと決めていたのに神楽坂を選んでしまった。
ガイドブックの「石畳」という言葉に心を持って行かれた。神楽坂にはまだ行ったこともなかった。
もともと石畳のある風景は好きで、石畳のあるヨーロッパの路地裏を収めてある写真集まで買ってしまう程だ。
そこで、神楽坂に行こうと決めてから、東京に行く目的がカフェ「ル・ブルターニュ」に差し代わってしまった。
何度か行くうちに、メインディッシュのガレットだけだったものが、デザートも注文するようになった。フルーツがたっぷり載ったデザートガレットを食べて心もお腹も満足した。
カフェの内装も素敵だったのが、リピーターになった理由でもある。私が座った場所は、テラス席。真冬には暖炉を模したようにストーブがテーブルの横にあり、椅子には暖色系のチェック柄のひざ掛けが用意されていて、そこが私の指定席だった。
しばらくして、東日本大震災が起こった。
私は東京に行かなくなった。
今回このコンテストに伴い、カフェ「ル・ブルターニュ」の存在を思い出した。
カフェの雰囲気とガレットの味が脳裏に蘇ってきて、再び立ち寄ってみたくなった。