初対面の学部3年生に遠隔グループワーク演習をやってみたら驚きの連続だった話

長くなりそうなので言いたいことを最初に書いておくと、
enPiT最終年度にして新しい試みとなった遠隔グループワーク演習が最高に面白い展開になったので大声で叫びたい、と言う話です。ついでに言うといろんな人に見てほしいし、議論したい気持ちになっている。

経緯

まず経緯から。
enPiTについてはAgilePBLのところでも書いたので割愛します。enPiTのメインイベントは7月終わりに1週間実施される夏合宿で、筑波大ではそこで1日スプリントを5回実施しスクラム開発の基礎を体で覚えます。4月から合宿までは個別に開発スキルを磨くいわゆる自習期間です。Rails Tutorialの動画コンテンツなどを契約して提供したり(YassLab様ありがとうございます!)、Arduinoハンズオンや個人開発発表会などはやったりしますが、基本的にはアジャイルとかスクラム等の話は何もせず個々人コツコツとスキルを磨いていただく期間で、各個人の自主性にお任せでした。

さて今年。アレの影響で春学期は遠隔講義、なんだったら通年遠隔を想定したほうが良い、と言うことになり。遠隔でグループワーク!?いやそんなのは無理、難しい、とこれまで多くの方に言われてきました(実際enPiT初期の頃は分散PBLというフェーズがあり、まぁ厳しかったです)。それを今まで会ったことのない学生同士で最初から?なにそれどうなっちゃうの?と4月は全く先の見えない状況だったわけです。

で、例年夏合宿の講師としてお世話になっているアジャイルコーチのとmiholovesq氏とkyon_mm氏に相談した際、やっぱり難しいですよねぇしかも学生・初対面だし、夏合宿もこれまで同様にはできないだろうから少し内容落として云々と言う話をしていた最中、kyon_mm氏の「遠隔=難しい、無理って思い込んでない?」という指摘にハッとさせられました。もちろん急に開発を始めるのは無理だろう。だけど合宿前に遠隔協調作業の試行をしてノウハウを積み上げて受講生の状況を見てから夏合宿の内容を落とすかどうか決めてもいいのでは、と。毎年受講生の成長に驚かされている私たち。なぜやる前から難しいと決め付けているのか。

やったこと

というわけで、5月から6月にかけて、週2回1時間ずつ遠隔グループワーク演習をすることにしました。内容はこんな感じ。

1. 初級編:Jamboardで付箋を動かす。自分の名前を書いた付箋を「今年見た映画の本数」で並べ替える。自分の付箋は動かせず、連続して付箋を動かしてはいけないと言う制約付き。
 ねらい…アイスブレイク、ツールに慣れる、遠隔作業の問題を洗い出す

2. 初級編2: 1と同じルールで「出身地を北から並べる」
 ねらい…前回の振り返りを活かす、想定の違いに気づく

3. 初級編3: 同じチーム全員(4〜6人)の共通点を探す(お題をちょっと変えて2セット)
 ねらい…スケジュールを自分で管理する、他チームのやり方を盗む

4. 中級編1: チームで絵を描く
(自販機でジュースを買う方法、卵焼きの作り方)
 ねらい…用途に合ったツールを考える、共同で一つのものを作る

5. 中級編2: ポスターを描く(チーム内に未経験者のいるゲームを選び、そのゲームの魅力を伝えるポスターを作る)
 ねらい…タイムボックス、顧客を意識する

6~9は内緒(未実施のため)だけど最終的に遠隔モブプロまでやる予定。

1回の演習スケジュールはこんな感じ。
画像1

みたらわかると思いますが、振り返り厚めです。試行しては振り返って学びを洗い出して他のチームの学びを見て改善する流れ。

ちなみにDiscordを使っています。大部屋1つと小部屋を12部屋(履修者は60人くらい)。チームは毎回いろんな人と組むように自分たちで部屋を決めて入ってもらう。教員とメンターが8~10人くらいいて、最初の1,2回は各部屋で働きかけをしたものの、途中からはほぼ観察のみ。また各チームにJamboardを用意し、グループワークと振り返りはそこでやります。

実施してみて

最初こそ戸惑いがありグループワークが始まっても誰も話さなかったり、緊張感があったものの、回を重ねるに連れて対面と変わらないくらいの盛り上がりを見せるようになりました。振り返りをするたびに本質的なコメントがバンバン出て次に反映されていきます。うまく言葉で表現できないので、各回に起こったことと振り返りの一部を紹介します。

第1回:機材トラブル等が多発(ZoomとDiscordを併用)。ゲームが始まっても話し出しづらいなど、初対面で遠隔だと大変だよなぁ、という問題がいろいろ洗い出される。

「自分が話し出すにしても、顔が見えないので相手がどれだけ会話に対してモチベを持っているかわからないので、最初の一言が決まらない。」
「みんな黙り込んでしまうので積極的に話しかけに行ったら良いと思った。一回打ち解ければある程度話せるとわかった。」

第2回:1回目と同じゲーム(チームメンバーは異なる)だったため、前回の振り返りを踏まえて作業がスムーズになる。前回を生かしてチーム内でのルールづくりや対話の工夫が既に構築されつつある(驚)。

「失敗を活かすことは大事なんだなと学びました。今回も失敗はあったので、次回に活かせたらなと思います。」
「話す前に名前を言うことで、どの声がどの方かの判別がついた。」
「定義するのが大切.誰が誰の付箋を動かすか,どの順番に並べるか,などを定義すると,話が進みやすいことがわかった.」

第3回:積極的にカメラオンにしたり、Jamboardに縛られずテキストチャットや他のツールを併用するなどの独自の工夫が見られ、他チームがやって良さそうなことを即座に取り入れている。柔軟性がほんとすごい。

「相槌大事。反応(リアクション)大事。」
「他の班のうまいやり方を真似したら1回目に比べて2回目の方が格段にやりやすかったです。」
「慣れてきたと同時にやはり対面と比べた時の情報量の少なさが浮き彫りになった。(複雑なことを議論しようとする際に)」

第4回:プロセスを絵で描くワーク。他チームを参考にすることが増えてきた一方で、振り回されずに自分たちのやり方を貫いた方が良かったかも、という振り返りも。タイムスケジューリングを完全にチームに任せた(運営はイベント開始時間にテキストチャットでアナウンスするにとどめた)が、自律的にタイムキーピングができている。例年アジャイル開発について講義してから言っているような話が学生の振り返りで自然に出てきて驚く。

「速く作ることの大切さを学んだ。5分でminimumな物を完成させて残りの5分で増強していく。」
「行うことを行ってから(無言で)するのではなく きちんと先に言っておく(こちらのやっていることは相手から見えない)」
「"卵焼きの作り方は卵を割ることから"という認識がグループ全体にあったが,鶏のイラストを入れているグループもあって,開始地点が違うことに気付かされた。円滑に進んでいるがゆえに,暗黙の了解の部分に気づかないで作業していたが,これでコケるケースもあるだろうなと思った。」

第5回:ポスターを作るワーク。チームの中で一部未経験者がいるゲームを選びそのゲームの魅力を伝える。作業時間はいつもの倍だったが、複雑な問題のためやはりタイムキーピングは難しかった。振り返りがもはやいい話の宝庫。自分の位置付けを生かして自律的に役割を考えるなど。

「ツールよりとりあえず作ってみることが大切。」
「私はほとんどゲームをやらないので、経験者に質問を投げかけることで進行を手助けした。... 未経験者にも伝わる魅力って何ですか?その魅力を表現した〜〜〜な画像はありませんか?といった質問をすることで論点を絞り、限られた時間をうまく使えることがわかった。」
「進行役がいなくても,みんなが同じくらい話せると楽しい.」
「役割分担は割とふわっとしていても大丈夫ということを学んだ。 方向性や成果物が見えていれば、みんな自発的に行動をすることがわかりました。」

まとめ(まとまらない)

私の拙い文章ではなかなか伝わらないと思うのですが「アジャイルとかスクラムとか教えなくても自分でどんどん本質的なことを掴んでいく様に驚かされている」と言う話でした。

最後に提案です。

多分今年しかやらないだろうこの貴重な授業を、オンラインという特性を活かして、授業参観企画をやりたいと思っています。興味のある方、ご連絡をください。

あと本当はこの授業をめちゃくちゃ助けて盛り上げてくれている、素晴らしい学生メンターの皆さん(去年の修了生)の話とか、この演習の後にやっているソロ活動(7月からのチーム開発に備えた個人学習)の話とか、去年の受講生を中心に研究をアジャイルにやる「Agile in research」を始めているという話とか、書きたいことがめっちゃあるんですが、長くなるのでまた後で書きます。




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