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『ドギョム:アーサー王への軌跡』を観て

韓国での上映決定のニュースを見たときに、どうか日本でもお願いします!!と願っていたものの、難しいだろうなぁ……とどこかで諦めていた『ドギョム:アーサー王への軌跡』。日本でも1週間限定で上映されることが決まって、本当にうれしくてありがたくて、待ちわびていた公開日がついに訪れた。

記憶が新しいうちにスクリーンでミュージカル俳優도겸を観た感想を綴っていこうと思う。映画館の暗闇の中でノールックメモ取りながら観たけど、終わってノートを見たら、案の定何が書いてあるかよくわかんなかった。

※以下、ネタバレを含みまくります。ドギョムの発言は要約です(要約にすらなってないかも)。

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韓国ミュージカル『エクスカリバー』は2019年に初演されたミュージカルで、今回のドキュメンタリー映画は再演となる2021年公演の様子を収めたもの。概要はこちらからご覧ください。

『ドギョム:アーサー王への軌跡』というタイトルがスクリーンに映し出されたとき、この映画タイトルって実質『ドギョム』だよなぁ…すごいなぁと思った。『古畑任三郎』とか『半沢直樹』みたいなものじゃん?(違うか?いや、そんなに遠くないよね…?)



「(初演のときとは)台本も変わり、曲も追加されて動線も難しくなった」、「アーサーと自分をどのように一体化させたらいいのか悩んだ」と語るドギョムの眼差しが本当にピュアで、その雰囲気が“純粋なアーサー”にぴったりな気がして、見ているこちらも母性全開で「がんばってね……!」という気持ちとともにドギョムがアーサー王になる軌跡を追った。

リハーサルや舞台上で見せるステップの軽やかさはさすがとしか言いようがなく、ミュージカル特有の“歌いながら演技をする”ことも特殊能力だと思うけれど、“歌いながら踊る”という、これまた特殊能力を持っている人はやはり違う。

披露される歌声も表情も、SEVENTEENのステージで見せるそれとは違っていて、歌を歌うことと、歌で演技をすることの違いを改めて感じた。歌詞ではなく台詞を歌うことの難しさ……歌詞って完璧に聞き取れなくても成り立ってしまうものだけど、台詞はそうはいかないもんなぁ。その難しさと向き合いながら、ひとつずつ確実に目の前の壁を乗り越えていくドギョムの姿がまっすぐですごく美しい。主役でありながら、他のキャストが座っているなか、ひとり後方で立って指示を聞く姿に、アイドルの世界では豊富な経験を持っているドギョムでも、ミュージカル界では新人である事実に気づかされる。

実際に共演者の方々の演技も歌声も異次元のすごさで「うわぁ〜!」って何度も声に出さずに口が動いちゃってたと思う。ミュージカル音楽って本当にパワーがあって、台詞や曲調にかかわらず、聞いてると元気出るよね。演者の魂をぶつけられてる感じ。大好き。

そんな実力を持った共演者に囲まれながらも、アーサーが岩に刺さった剣〈エクスカリバー〉を抜こうと決意するときのドギョムの歌声がもう本当に圧巻で、直接心臓を掴まれて揺さぶられるような、自分を突き抜けて遠くに伝わっていくようなすばらしく伸びやかな歌声だったんだよね。その声を聞いたとき、気づいたら涙が流れていて、「えっ、わたし泣いてる?」って、自分でもびっくりしてしまった。

朝10時から夜10時までという長丁場の稽古が続いても、殺陣のシーンでは集中力を切らさないようにしようとする姿や文字でびっしりと埋め尽くされたスマホのメモ画面を見て、SEVENTEENの活動と並行してこんな過酷な稽古を……と少し胸が痛んだけど、「うまくできなくて自分に苛立ったり、スランプに陥ったりした」と話すドギョムが「観客席にいたファンを見たときに、自分に勝って、いい作品を届けようと意識が変わった」って言うんだよ。いつでも歌手、アイドルとして、ファンのために最善を尽くそうとしてくれるドギョムがここにもいるの(泣)。

殺陣のシーンは素人目で見ても動線が複雑で難しい。映画やドラマで何度も殺陣のシーンを見てきたけど、あとから音楽や音をつける映像作品と違って、ミュージカルは音に合わせて動き、時には歌いながら、戦いを再現する殺陣シーンとは異なる美しい動線を描きつつ立ち回らなくちゃいけない。あまりにいろんなことが同時に行われていて、こちらも無意識に力が入ってしまった。


稽古が始まった当初は「緊張で共演者との距離が縮められない」と言っていたのに、稽古を通じてすっかり“みんなのかわいい弟”になっているドギョム。天性の愛され人という感じ。初日の舞台に向かう車中では「緊張より楽しみが大きい」ってワクワクしたような表情で言うんだよ。すごくない?すごいよね。それは多くの時間をかけて自分が納得できるまで稽古と向き合った何よりの証拠だなと思った。

稽古中も自分で「ここはこうしてみてもいいですか?」って積極的に意見を出して、それに対してランスロット役のカン・テウルさんも「自分の好きなようにやってみるといい」って言ってくれる。ちゃんと信頼関係が築けているからこそのやり取りの様子にうれしくなってしまったし、先輩方の懐の深さにバックステージまで本当にすばらしいミュージカルだなぁと感じた。



アーサーの感情の動きがまぁ忙しくて、王になる前となったあとでも全然違うし、天使のような表情から悪魔のような表情まで、とにかくずっと己と葛藤しながら成長していくんだけど、王になる前のアーサーの純粋さを知っているから、怒りを抱えて剣を人に向けるアーサー王を見ると「やだ…あのかわいいアーサーはどこに行っちゃったの……」ってさみしくなってしまう。もうドギョムを見てるんじゃなく、アーサーを見てる。それくらいストーリーに夢中になってしまった。舞台はナマモノだから、このドキュメンタリーに収められているドギョムの姿も歌声も表情も毎公演違うんだよなぁ……いつか実際にこの目でミュージカル俳優도겸を見てみたいな。


千秋楽、共演者と抱き合いながら涙するドギョムを見て、「愛することも、愛されることも好き」と以前から本人が語るように、いつだって人を愛そうとするし、それ以上に人に愛される努力を惜しまない人だなと思った。いつでもドギョムがいる場所はあたたかくて、陽だまりみたい。

ステキなミュージカルを、そして、それに挑戦するかっこいい姿を見せてくれてありがとう!これからもドギョムが挑戦したいと思うことへの道が拓かれていますように。


[2度目の鑑賞後追記(2023.1.23)]


ミュージカル俳優としての自分にまだ自信が持てない……だけど、がむしゃらに稽古を積んでいくドギョムの姿を映したあとに、その場面のミュージカルのステージ映像が差し込まれる、この構成がすばらしいなと改めて感じた。逃げ出したくなるような不安を抱えながらも必死に喰らいつくドギョムのまっすぐな姿を見た直後に、ステージの照明に照らされてキラキラした目でアーサーを演じるドギョムを見ると、そのたくましさにグッときてしまう。

そして、複雑な運命を抱えながらそれを受け入れ成長していくアーサーという役がこんなにもよく似合う理由は、やっぱりドギョムの「声」にあるなと思った。怒りに震えたアーサー王も親友のランスロットを斬ることはできないし、人を憎みきることもできない。そういったアーサーの中にあるピュアなやさしさを表現するのにドギョムの伸びやかで濁りのない澄んだ声がぴったりなんだよね。


役者さんって役が憑依するタイプと、自分を役に寄せて表現するタイプがいると思うけど、ドギョムは後者で、「アーサーと自分をどう一体化させるか」と何度も語っていたように、「自分がアーサーだったら……」をひたすら考えて咀嚼して、ドギョムが思うアーサーを表現したんだと思う。だからこそ、アーサーの成長を見るとともに、ドギョムの成長も見て取れるように感じて、いっそう感動したなぁ。

何度も観たくなるし、観るたびにこのドキュメンタリー映画が教えてくれたドギョムのすばらしさを伝えたくなってしまう。


[アンコール上映鑑賞後追記(2023.9.25)]


前回の上映から8ヶ月を経て、1週間限定のアンコール上映が決まった。

もう感想は書き尽くしたと思ったけれど、観たら観た分だけ新たな感想が生まれるので、思ったことを追記していこうと思う。

8ヶ月前というと、世間もまだコロナの影響下にあって、マスクも必須。けれど今、(決して収束したとは言えないけれど)コロナ前の日常が戻りつつあるタイミングで観ると、前回とは見え方が変わってくるなと思いながらスクリーンを観ていた。

稽古場にいるのはマスク姿のキャストたち。2021年、日本でもキャストや関係者の罹患によっていくつもの舞台が中止を余儀なくされた。それは『エクスカリバー』も同じだったはずで、こんな熱量で稽古に取り組んでいる人たちも、状況次第では舞台の幕が開かない可能性をどこかで考えながら、日々稽古に打ち込んでいたのかな……などといった想いが頭に浮かぶ。

劇中で1曲目に流れた「언제읽까(When Will We Learn)」の中にある「すべてうまくいくさ」という歌詞。とても清々しい表情でこの歌を歌うドギョムの姿を観ながら、もしかしたら、この歌詞は当時のドギョムにとっては自分を鼓舞するような意味合いもあったかもしれないなと勝手に想像しながら聴いた。この曲を歌う春風のようなあたたかい歌声が大好き。


さまざまな感情を抱えながら王としての自分と闘うアーサーだけど、なかでも対ランスロットとのシーンは、改めて見てもこの世にあるすべての感情がこの舞台上にあるんじゃないかと思うほどだった。喜びもうれしさも憎しみも悲しみも全部を表現する2人……とくに印象的だったのが、ランスロット最期のシーン。息絶えたランスロットに覆いかぶさるように悲しみを叫ぶアーサーの表情が、まさにドギョムが目指していた”ドギョムとアーサーが一体化”した瞬間のように見えた。


千秋楽で共演者のみなさんに囲まれながらドギョムが涙する場面も、無事にこのミュージカルが千秋楽まで完走できることを知ったうえで観ているから、前回は「本当にすばらしかった!よかったねぇ」という気持ちだったけれど、今回その場面でふと、千秋楽直後に移動の車内でライブをしてくれたドギョムが「千秋楽の前々日にワクチンを打った影響で夜中に発熱してしまい、万全の体調で舞台に立てなかった」と話していたことを思い出した。

みんなにハグされて、讃えられていたあの時間が当たり前ではなかったこと、ドギョムがピンチを乗り越えて迎えた時間だったことを、うっかり忘れそうになっていた……。それとともに、ライブ配信で「最善を尽くした」「本当にありがたい日」と話していた記憶が一気に巡って、千秋楽に流した涙の意味がますます濃く感じられたように思う。2021年夏から秋にかけて、アイドルとしては観客のいるステージに立つことができなかったこの時期に、観客の前で歌えることは、本当に意義深いことだっただろうな。


最後、インタビューでファンへのメッセージをと問われて「CARAT(ファン)はどんな状況でも僕たち(SEVENTEEN)についてきてくれると信じられる。お互いに頼りながら、友だちや家族のような存在でありたい」という内容を話していたけれど、それはドギョムが、そしてSEVENTEENが、いつだって全力でかっこよくいてくれるからだよ、だから「ついていきたい」と思えるんだよ。

緊張や不安を圧倒的な練習量で自信に変える姿、本番の日が近づくにつれてどんどん顔つきが変わっていく様子………貴重な過程を丁寧に映してくれたこのドキュメンタリー映画を、このタイミングでまた観ることができて本当によかったなぁ。これからも何度も思い出したいすばらしい作品だった。

追記長くなりすぎちゃった。しょうがないよね、それだけの魅力があるんだから。

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