【音楽】Haruka Nakamura / スティルライフ

アルバムジャケット

YouTubeを開くと「あなたへのおすすめ」がゾロゾロと並ぶが、何でこれ?というトンチンカンなものも多く、「この動画は好みではない」と教えてやったりもするがなかなか改善されない。このアルバムをおすすめしてきたのも、明らかにトンチンカンのひとつだった。

最近は、動画のサムネイルをポイントすると、自動的に冒頭部分が再生されるようになっていて、この時もたまたまアルバムの1曲目『あくる日』の冒頭が流れ出した。
ピアノの音にミュートがかかっている。それも変わっているのだが、カタカタという、鍵盤の音なのか、雑音が混ざっているのも気になった。レコーディングされた音源に何故だろう。不思議に思って再生ボタンを押した。

素朴でふんわりとした、デッサンのような小曲が15曲。一気に聴いた。これは良い。稀にこういうまぐれ当たりがあるから、YouTubeは侮れない。

haruka nakamura というアーティストを知らなかったので調べてみた。

1982年生まれ、青森県出身、東京在住の音楽家。5歳からピアノを、中学からギターを弾き始める。高校1年の夏に上京し、2006年より本格的活動を開始。MySpaceに音源をアップしたところ、nujabesやシンガポールのレーベル〈KITCHEN.〉など多くの反響を呼ぶ。その後、2008年に『grace』、2010年に『twilight』、2013年に『MELODICA』というアルバム3部作を発表。また、Janis CrunchやAOKI, hayatoとの共演や即興演奏プロジェクトのharuka nakamura LABOで活動するほか、展示会などの音楽も手掛ける。2014年12月、『音楽のある風景』をリリース。

2015/11/20 (2018/02/01更新) (CDジャーナル)

https://tower.jp/artist/504879/haruka-nakamura

『スティルライフ』は2020年4月に発表されたアルバムで、ピアノのソロアルバムとしては10年振りだそう。
自宅のアップライトピアノで弾いたものを録音したので、鳥の鳴き声や学校のチャイムの音が聞こえたりする。
ミュートがかかっているのは、この音色が好きだということと、部屋に防音設備がなかったのが理由らしい。
ただ、いざ録音してみるとミュートされた音は弱く、カタカタという雑音が響き過ぎてかなり苦労したという。

というようなお話は以下で読める。彼のプロフィールから、アルバム制作に至る偶然のような必然のような経緯や想い、録音の苦労とピアノに施した驚くべき工夫まで、アルバムを聴く助けになるインタビューだ。

haruka nakamuraが語る、音楽とは灯台の光 日々の生活に慈しみを

CINRA

彼のブログにも、録音時の苦労が綴られている。

一月二十八日 「新しいミュート・ピアノへ」

灯台

とはいえ、このアルバムが醸し出すのはそんな試行錯誤の苦労ではなく、まだ肌寒い季節に陽が差し込む窓辺でまどろむようなノスタルジックな情景だ。

私はピアノが弾けないが、実家には母のアップライトピアノがあった。今もある。
母の兄のひとりはジャズピアニストだったが、母にピアノの素養はなく、本格的に弾き始めたのは私が子供の頃で、それは保母資格を取るためだったと思う。実際に訊いたことはないので「思う」なのだが、もう死んでしまったので確かめようがない。そんな事柄が山ほどある。

このアルバムが発している強烈な懐かしさの大元はやはり、ミュートのかかったピアノとそのまわりの空気も含めて切り取られた音なのだろう。
母のピアノをおもちゃにして遊んだ時の鍵盤の重さやペダルを踏む感覚が、身体の芯に残った熾にポッと火が灯るように甦る。

『スティルライフ』に収録し切れなかった曲を集めた『スティルライフⅡ』もリリースされている。アナログで聴いたりするのが最高な気がするけれど、とりあえず今は、この2枚のアルバムをサブスクでループして聴いている。


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