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パラレルワールド

9歳か10歳の記憶。
自転車で5分ほどの友達の家に遊びに行った帰りの出来事。
いつも通る人通りの多い道ではなく、なぜか裏道から帰ってみたくなり細い道に入った。その裏道は何度も通ったことがあるので見慣れた景色だった。普通の住宅街だ。
だけど、その日は違和感があった。その違和感の正体がなにか分からないまま、ふとあることに気づいた。家は同じなのだが表札が違うのだ。一軒の家の門柱には『死川』とある。とうてい苗字に使われるはずのない漢字だ。こんな苗字の家なかったよな……。じっと表札を見ていると急に怖くなってきて、急いで自転車を漕いでいつもの道に戻った。
自転車を停めて振り返る。見慣れた住宅街があるだけだった。が、さっき感じた違和感の正体が分かった。住宅街には何の音もなかったのだ。雀の鳴き声や車が通り過ぎる音が、すぐそこに見える住宅街に聞こえないわけがなかった。
もう一度戻って確かめてみようかと頭をよぎったが、二度と戻って来れないような気がしてやめた。
あれはなんだったんだろう。40年前の出来事だが、未だに定期的に思い出しては首をかしげている。


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