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お腹の中の人

3歳から5歳くらいまでの記憶だ。
私はよく、自分のお腹の中に住む子と話をしていた。
イマジナリーフレンドとは、少し違うような気がしている。
名前は「びーと」と教えてくれ、男の子っぽかった。子どものような声はしていたが、私よりはるかに物知りで考え方も大人びていた。記憶に残っている出来事では、玄関で祖母が近所のおばさんとの会話のなかで「お言葉に甘えて」という言葉を出した時、私はびーとにその言葉の意味を聞いた。するとびーとは「ありがたい申し出をしてくれて、それを受け入れるときに使う言葉だよ」と、AIのようにすぐ答えてくれた。
他には、近所の友だちの家に遊びに行った時のこと。高い塀の上に上がって歩いていて足を踏み外した。「あ、死ぬのかな」と思った瞬間、スカートのサスペンダーが塀の飾りになっている穴に巻き付き、宙ぶらりんになり無傷で終わった。頭が逆さまになってぶらぶら揺られていると「そんなことでは死なないよ」とびーとが言った。
びーとは何でも知ってるんだなと感心した。でも、そんなびーとも私が小学一年生になると、いくら話しかけても返事をしてくれなくなった。

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