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足音

人によっては怖いと感じる話かもしれない。

私が幼稚園児だったときの記憶。
夜は2階の子供部屋ではなく、両親と一緒に1階の部屋で寝ることが多かった。当時私はまだおねしょをしていたので、母が私を夜中に起こしやすかったためだと思う。
父はいつもラジオを聴きながら推理小説や週刊誌を読み、そのうち、うとうとし始める。
台所の片付けを終えた母が入ってくる。ラジオを消す。
やがて2人とも寝息をたてる。

すると外から足音が聞こえてくる。1人の足音ではなかった。2~3人、もっとかもしれない。
でも、だとしても、家の中にいるのに、どうしてそんな大きな足音が聞こえるのか不思議だった。さらに不思議なのは、実際の家の前はアスファルトの地面なのに、わら草履のような履物で土の地面をザッザッと擦るように歩く音がした。
だんだん足音は家に近づいてきて、家の前でピタッと止む。そして鍵がかかっているはずの玄関がガラガラっと開けられるのだ。
ここからがまた不思議だった。玄関を上がってすぐの廊下で、足音の主たちは太鼓を叩きながら踊るのだ。
ドンドコドコドコ ドンドコドコドコ
起き上がって見に行く勇気はなかったから、それらの姿を見ることはできなかった。
足音の主たちは、毎晩連続で来ることもあれば、一週間間が空くこともあった。
初めて聞いた時は怖くて震え上がったが、慣れてくると、そろそろ来るかなと楽しみにするようになっていた。
足音の主たちは、玄関前の廊下から奥へ入ることはなかったし、数分間踊ると再び玄関から出てどこかへ帰って行った。

私が小学校に上がる頃には、その足音は聞こえなくなった。
でも、足音の主たちが来なくなったからではなく、私が聞こえなくなってしまったんだなと、子どもながらになんとなく思った。






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