「1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書」試し読み④――ガッツ石松

創刊42年、1万本以上に及ぶ『致知』の人物インタビューの中から、仕事・人間力が身につく記事を365篇選び抜いた『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)。全国の書店で続々ランクインし、発売からわずか3週間で7万部を超えるベストセラーとなっています。就寝前や出勤前のたった3分間、本書を開くことで得られる仕事や日々の指針。365名の貴重な話が収録され、仕事のバイブルになるとともに、人生の教科書ともなることでしょう。

さて、本書にはどのような話が収録されているのか。元WBC世界ライト級チャンピオンガッツ石松氏のお話をご紹介します。

「偉い人間にならなくていい、立派な人間になれ」

    ガッツ石松(元WBC世界ライト級チャンピオン)

俺だって本当は高校に行きたかったけど、そんな余裕がある家庭じゃないからね。じゃあ、何も持たない自分が這い上がるにはどうすればいいか。体一つで戦えるボクシングしかないと思った。

とりあえず近所の人の紹介で東京の会社に就職しました。入社してすぐ、会社のみんなで元フライ&バンタム級で世界チャンピオンのファイティング原田さんの試合中継を見ていた。

その時、俺は社長さんに

「俺もボクサーになりたいから、ボクシングジムに通わせてください」

と申し出た。すると社長さんは、

「おまえみたいな人間が、あんな偉い人間になれるわけがない」

と言ったね。

まだ十五だよ。ショックだったね。ああ、東京も田舎も一緒だ。俺みたいなやつにチャンスはないんだ、と思って、すぐに会社を辞めて田舎に戻った。

村の人たちに見つかると「あそこの息子、もう仕事をやめて帰ってきた」と噂されるから、真夜中にひっそりと帰って、昼間、誰にも見られないようにふるさとを歩いたんだ。

山、川、田んぼ、畑……。ふるさとの自然に抱かれているうち、「よし、俺はやっぱり東京へ行く」という思いが湧いてきた。

もう一回上京する日、おふくろはいつも通り朝早くに土方仕事へ出て行った。帰ってきた数日間も、忙しくてろくに話もできなかったから、駅に向かう途中に仕事場に立ち寄ってみたんだね。

「もう一回東京へ行ってくるぞ」

と言うと、おふくろは泥だらけの手で前掛けのポケットをゴソゴソやって、一枚の千円札をくれたんだ。俺がいつも悪さばかりしていたから、

「サツ(札)はサツでも、警察のサツは使えねえぞ」

と言ってね。そして、ハラハラと涙をこぼしたかと思うと、

「偉い人間になんかならなくていい。立派な人間になれ」

と言った。

うちのおふくろさんは学歴はないけど、やっぱり苦労を重ねて生きてきた人だから言葉に力があったよね。すっと心に沁みて、それはいまも忘れない。結局、その時もらった泥のついた千円札はずっと使えなくて、いまでも大切に持っていますよ。

※感動秘話が満載。あなたの心を熱くする365話