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いつだって秘密基地が必要だ

久しぶりのnote。特にオチとか無いけど、今日は好きな本屋の話をします。

突然ですが、私は今の自分に必要な自分専用のとっておきの秘密基地を見つけるのが昔から得意なんですね。それは、幼い頃から異様なほど外面の良い性格の私が、束の間の休息の場を求めるため、本能的に身につけた能力といっても過言ではないでしょう。

休息の場といっても、ガチガチに固められた外面の化けの面を脱いだ「自分が思いっきり甘えても良い場所」とかではなく、自分じゃない他の人でいられることが許される場所というか、俗世離れした空間とか関係性とかそういうもので、

高校生の頃、理科準備室に入り浸っていて、実は科学の先生ととても仲が良かったとか、実は国語の先生と漫画ホタルノヒカリを貸し借りする仲だったとか。他の人は知らない秘密の関係、秘密の場所。そういうものです。

その本屋は四ツ橋筋線にある某駅が最寄駅で、わざわざ行かないと行けない場所にある。昔ながらの本屋で、店舗面積は10坪もいかないくらい。最近はレトロな喫茶店や大衆居酒屋とかが流行っていて、あえて昔っぽくした店が注目されているけれど、この本屋はそういうお洒落部類には入らない、ただただ昔から営業している本屋。でも、どこかで見たことあるような、商店街の一角に佇んでいるような、とにかく大好きな本屋なのだ。

私は、仕事終わりに彼氏の家へ歩いて向かっている時にこの本屋の存在を知った。そういう人以外、きっと、この本屋に立ち寄ることはないだろう。

店先には、A4の紙に雑にマジックで書かれた「ここの本無料です!」という貼り紙と、府内にある大学や専門学校などで作成されたのであろうフリーペーパーが並んだラックが置いてある。店主の人の良さが伺えるこのラックが私は好きだ。学生が店主に交渉して、このラックにフリーペーパーを置いていく様に想いを馳せる。

店内に入り、まずは古本コーナーを物色。安いもので価格は50円から。たまに昔のBRUTASなどを発掘できる。こういった掘り出し物を見つけた時のアドレナリンといったら!

ちなみに、店内はただただ静まりかえった空間が広がっているので、物色の際はご注意を。自分の心臓の音と、息遣いと、足音、本を手に取る際のざらっとした音、ページをめくる音が空間中に立ち込めるため、良い本を見つけた時の興奮をそっと押し殺さなければならない。これがなかなか結構辛い。

店主は店内の中央にあるレジでボーッとしていることが多い。客が来ても話しかける素振りすらないし、なんなら「いらっしゃいませ」の掛け声もない。加えてこの店は、いつ行っても客がいない。

そんな寡黙な店主にも、一応推しの本はあるようで、表紙を向けて本棚に立てかけるようにして置いてある。ラインアップされた本は、巷で騒がれているような話題の本ではない。完全に独断であろう。目立つようにPOPが添えてあるわけでもない。立てかけるといっても、使用済みの茶色のティッシュボックスをスタンドにして置いてある、のみ。「とことんお金をかけないんだな…」と驚くと同時に、茶色のティッシュボックスを選ぶ店主のセンスを羨ましくも思う。ティッシュボックスってポップな色味のものが多くないですか?

店奥は埃っぽくて、少し古めかしい本が並ぶ。その多くが建築に関するものだ。私が分かるのは、最近よく名を聞く売れっ子建築家に関する本のみ。ほかは興味もそそられないほど、難しそうな本がギュウギュウに詰め込まれている。

さらに歩み進めると、「ここから先は販売してません」という貼り紙が突如現れ、その向こうには何やら専門性の高そうな、分厚く、埃っぽい本が並んでいる。これらの本は一体誰が読むのだろう、立ち読みには相応しくないだろうに…などと謎深まる。

建築に関するコーナーは、狭い店内の約6割を占める。店主は昔建築に携わっていた人間なのだろうか。それを確認するほどの信頼関係が築けていないのがもどかしい。周辺に建築に関する学校や会社が多いわけでもないから、恐らくそうなのだろう。

店内散策の途中は、決まって、店奥で繋がっている(恐らく店主の家)方向から度々人間が現れ、店主に何か話して戻っていく。扉の向こうにはもう1つの世界があるらしいけれど、その全貌を私が知ることは絶対に無い。だが、店主にとっては、こちらが公の世界で、扉の向こうが私の世界だ。なんだか不思議で、その人間が現れる瞬間が、私は実は結構好きだ。

本散策終了。気に入った本を片手に、中央にある店主がいるレジの元へ向かう。ここで本を買う時は、何故かpaypayを使いたくない。現実世界に戻るような感じがして嫌で、絶対に現金で払うようにしている。

お金を払い終わって店を出る時、店主が私の代わりにドアをカラカラと開けてくれる。また来てね、と深々と頭を下げてくれる。オンラインショップや、大型本屋では味わえない良さがここには全部ある。

コロナの影響できっと売り上げは厳しいはずだ。そしてこのような店が一体いくつ消えてしまったのだろう。少し悲しくなりながら駅へと向かう。

私にできることといえば、本を買うことだけ。出来るだけ多く足を運びたい。この本屋が好きな自分も大事にしたい。

日々新しいものがもてはやされて、色んなことが変わっていきそうな時代の真ん中を、今私は生きている。空っぽの自分を嫌に思うことや、不安に思う夜を過ごすことが増えている。この秘密基地について書きたくなった理由を探せば、何か見えるのかもしれない。今の自分に必要なものを考えてみよう。

追記

カバー写真はいつしか見た八坂の塔。

#ひとりごと  








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