見出し画像

曲託し:七草にちかのシンデレラ(灰の中から)

画像1

4月5日月曜日、エイプリルイベント、3rdライブ名古屋公演の興奮も冷めやらぬ中、シャニマスに新ユニット「SHHis(シーズ)」の七草にちかさんのカード、つまりアイドルとプロデューサーの出会いのストーリーであるW.I.N.G編が初めて実装された。

にちかさんは283プロの事務員である七草はづきさんの妹であり、アイドルに憧れる平凡な少女である。




─────そう、「平凡な」少女なのだ。


実装されたW.I.N.G編の内容はまさに、凡人であることを突き付けるような、ステージの上の人間ではないことを知らしめるような、そんな内容であった。



輝いていないのだ。



どうしたんだよシャニマス。キャッチコピーは「輝き始めた新世代」じゃあなかったのか。

おととし加入したStraylightも

去年入ってきたノクチルも

初期からいるみんなだって

みんな輝かせてきたじゃないか。


ところがにちかさんに限って言えば、最も輝く瞬間、優勝した時でさえも、その顔は苦しそうな表情で、実の姉にも、───あんなにもアイドル達を輝かせて来たシャニPにさえ、「平凡」として映っている。




──────それでもなお彼女がアイドルを目指すのは、憧れた人がいるからだ。


そして夢見る。いつか───きっといつか、大通りでたたずむ私を、誰かが見つけてくれて、きっといつか、あの人のようになるのだと。



ひとごみの中の誰かではないと、必死で叫ぶように。



そんなにちかさんに自分はある歌を重ねた。

その歌とは邦ロックの伝説的バンド「THE BLUE HEARTS」の曲、

「シンデレラ(灰の中から)」だ。


ブルーハーツといえば「リンダリンダ」や「TRAIN TRAIN」、「青空」「1000のバイオリン」「情熱の薔薇」など、言わずと知れた名曲を世に送り出し、日本の邦ロックに大きな影響を与えた4人組パンクバンドだ。

画像3

その特徴はパンクロックのバンドとは思えないド直球の歌詞、そしてその詩の深い文学性などがある。

彼らを代表する名曲の多くはボーカルのヒロト、ギターのマーシー、この二人によって作られている。


ヒロトとマーシーはその後も、ハイロウズ、クロマニヨンズと一緒にバンドを続け、どのバンドでも数々の名曲を作り出している。まさに伝説のロックスター。まぎれもないカリスマだ。


しかし今回取り上げる「シンデレラ(灰の中から)」を作ったのはそのどちらでもない。

ベースを担当していた河口純之助(かわぐち じゅんのすけ)、通称河ちゃんが作詞作曲をしている。


このことが、今回取り上げるにあたって非常に重要なのである。


何故かというと彼は、ヒロトとマーシーが拒絶した弱さ

THE BLUE HEARTSとして歌った男だからである。

画像2

そして、THE BLUE HEARTS解散のきっかけを作ったとも言われている。





それではまずは七草にちかさんに「シンデレラ(灰の中から)」を何故託したのか、その理由についてにちかさんのW.I.N.Gをなぞりながら語り、その後にこの曲の背景についても語ろうと思う。




シンデレラ(灰の中から)~七草にちかW.I.N.G~




この曲は曲名の通り、グリム童話のシンデレラ(灰被り姫)をモチーフにした曲である。

シンデレラは「シンデレラストーリー」とあるように、夢のような立身出世の比喩として使われることが多い

アイマスにおけるシャイニーカラーズの先輩ブランド、シンデレラガールズはまさにそういった使い方をしているように思う(詳しくない)

それはシンデレラが、恵まれない環境に置かれながらも、正しく生きてきたことで魔法の助けを借りて憧れの場所に行き、結果的には夢をかなえる物語だからである。

その美麗なイメージも相まって、アイドルとして成功するということはまさにシンデレラストーリーと言ってもいいだろう。



七草にちかさんはまさに、そんなシンデレラストーリーに憧れる一人の平凡な女の子だった。


画像4


にちかさんのコミュを読み進めてすぐ、個人的に驚いたのが今まで様々なアイドルのありのまま(嘘をつくことも含めて)を肯定し、それを最大限輝かせてきたシャニPでさえ「平凡」と形容したことだ。

画像5

いままで、つまり3周年目に入るまでのシャニPはアイドルの機微をすぐに察せ、正しい道をそれとなく指し示し、頼れる大人としてそこにいた。だからこそシャニマスPは敬意をこめて、「プロデューサー」ではなく「シャニP」と呼ぶのだろう。

しかし今(2021/4/6)出ている範囲のにちかさんのコミュでは、シャニPはその神格性をはく奪され、意図して頼りなく描かれているように自分は感じた。

画像6

画像7

画像8

画像10

また、全体的ににちかさんW.I.N.GはシャニPの独白が多いコミュでもあった。

画像9

その悩みを通して私たちは気付くのだ。彼女は今までのみんなとは違う。決してその場にいるだけでみんなが和むような存在でもなく、決して歩いているだけで思わず声を掛けたくなるような存在でもなく、見ただけでダンスを踊れるわけじゃないし、カリスマでもない。

今まで見てきたアイドル達は、程度はあれど少なからず「持っている側」の存在で、今まで見てきたシャニPはそんな彼女だからこそ成せていたシャニPであったのだと。

シーズン1のコミュでシャニPは歌うにちかさんをよそにこんなことを考える。

画像11

画像12

画像13

画像14

画像15

いままで23人ものアイドルの始まりを見てきたシャニPが、「最初は、こんなものなのだろうか」と悩む。

つまり今までの23人は違ったのだ。「こんなもの」じゃなかったのだ。


果たして彼女は「灰の中から」きらびやかなステージにふさわしいシンデレラになれるのか。なれるとして、その魔法は誰がかけるのか?

画像16

彼女にはアイドルに憧れるきっかけとなったとある伝説のアイドルがいた。

八雲なみ

画像17

にちかさんは彼女に憧れて、彼女のようになりたくて頑張っているのだ。

画像18

画像19


つまりにちかさんは彼女に「魔法をかけられた」のだ。

アイドルになる魔法を


※余談だがアイドルマスターシリーズの原点である765プロの秋月律子さんは裏方仕事を行いアイドルに対してもビジネスライクに接するなど、にちかさん、もっと言えば七草姉妹のルーツとも言えそうな性質を持ち、「魔法をかけて!」という持ち歌がある


そして彼女は授けられた。シンデレラを幸せへと導く、綺麗で、冷たい、舞踏会で踊るための「ガラスの靴」を


画像24


そして、283プロの事務員でもあり、にちかさんの実の姉でもあるはづきさんは、アイドルとしての一歩を踏み出した妹にある条件を突き付ける


画像26

画像27

W.I.N.Gで優勝することが出来なかったら、そこでアイドルをあきらめる。

シンデレラはいつまでも舞踏会にはいられない。つまりこれは12時の鐘なのだ。


シンデレラ シンデレラ
ここにずっと居たくてもいられない
シンデレラ シンデレラ
口に出せないことが多すぎて
素直になれやしない

⦅河口 純之助 シンデレラ(灰の中から)⦆


そこに居続けるために踊るシンデレラ

しかしその靴は、本当に幸せを運んでくれる靴なのだろうか?


画像28

画像27


童話「シンデレラ」では、ガラスの靴を履くことが出来るのはシンデレラ本人だけ。 何とか靴に足を合わせようとした義姉が、自身の足先を切り落とすもあえなく見破られるパターンさえある。


それでいえばにちかさんは。明らかに無理をしてガラスの靴を履こうとしているのだ。


画像28

画像29


「シンデレラ(灰の中で)」では、華やかな舞踏会の最中の、シンデレラの浮かれきれない気持ちについて描写している


きれいなドレスが気になると
気持ちは踊れない
ガラスの靴は冷たくて
まともに歩けない

裸足のままじゃ傷ついて
どこにも行かれない
ガラスの靴は冷たくて
まともに歩けない

⦅河口 純之助 シンデレラ(灰の中から)⦆


────綺麗なドレス、いつもと違う不似合いな格好は本当に私に似合っているのだろうか?

─────ガラスの靴の冷たさに、いつまで気づかずいられるだろうか?


─────灰をかぶっていたころの格好(裸足)でも、きらびやかなガラスの靴とドレスでもどこにも行けないというなら私は



この曲はシンデレラの曲でありながら、シンデレラに憧れる曲ともとれる。

灰をかぶっていた少女から、綺麗なドレスを着こなして、ガラスの靴で華麗に踊り、魔法からとけてもなお王子の心を射止め続けた


そんな幸せだけのシンデレラに憧れるシンデレラの曲




しかし本当にそうだろうか?

憧れられたシンデレラは、本当に何の痛みも感じなかったのか

画像20

画像21

画像22


にちかさんが憧れたシンデレラ、「八雲なみ」の最後は突然の失踪だった。まるで時間が来てしまったかのように、彼女もまた舞踏会から姿を消したのだ。

画像30


過去のクリスマスイベント「プレゼン・フォーユー!」でも八雲なみらしき人物は登場している。

2019年冬のシナリオイベント『きよしこの夜、プレゼン・フォー・ユー!~お客様の中にサンタはいらっしゃいますかSP~』では彼の過去が語られた。

かつては彼もプロデューサーとしてアイドルのプロデュースに携わっており彼の担当アイドルは海外進出も決まり空港にはマスコミが押し寄せるほどの人気アイドルであった。
しかし彼女は元々女優志望であり天井は「足に合わせるんじゃない、靴に合わせるんだ」というプロデュース方針で彼女の女優志望を退け、ダンスを強いた。
売れることが彼女を生かすと信じ、事実彼女は売れたのだが…
海外進出の当日、アイドルは空港に現れず天井のプレゼントした靴を河原に捨てもう履けないと吐露した。
その経験以来、毎年のクリスマスに「過去の幽霊」の訪いを受け、天井は約束の神社で待ち続けているという。

(ピクシブ百科事典 天井努から引用)


ここで天井社長がプレゼントした靴(ダンスシューズ)というのはアンデルセン童話「赤い靴」を下敷きにしていたものと自分は思っていた。

元孤児の少女は、手に入れた赤い靴をいたく気に入り、黒い靴を履いていくべきであった養母の葬式にさえ赤い靴を履いていってしまったために、踊り続ける呪いをうけ、その踊りは首切り役人に両足を切り落としてもらうまで止められず、切り落とされた赤い靴を履いた両足はそれでもなお踊り続けた…という童話である。


もちろんこれもモチーフの一つとしてあるだろう。しかし今回の彼女はもう一つの顔を与えられている。


それがシンデレラだ


にちかさんのW.I.NG優勝後のシャニPの回想にて当時の彼女を知る録音技師は彼女をこのように語る

画像31

画像32

画像33

画像34

画像35


まさにシンデレラストーリーであり、「平凡」と呼ばれるにちかさんに比べて優れた容姿も備えていることから、「本当のシンデレラ」であるともいえるだろう。

また、ここで彼女に「魔法をかけている」プロデューサーというのは前述した283プロの天井社長である。


しかしその魔法は解けてしまった。もしくは解いてしまった。


流れる雲よ 思い出よ
時は過ぎ去って行く
ふるえる心のまんなかに
おかしなぼくがいる

⦅河口 純之助 シンデレラ(灰の中から)⦆


その舞踏会で踊る彼女自身を、彼女はどう思ったのであろうか。
不似合いで、場違いだと思ったのだろうか。


シンデレラを気取っていてもその震える心の中で、「シンデレラではない本当の自分」がいたのだろうか。

画像36



七草にちかさんがずっと心の支えにしていた八雲なみの曲、「そうだよ」の歌詞はこうだ。


画像37

画像38


ひんやりして ね ぴったりじゃない
今夜 わたしを つれていく靴


そう───彼女の靴は、「ぴったりじゃない」のだ。


シンデレラの靴は、ぴったりでなければ幸せは掴めない


ひんやりとした靴はいつか痛む冷たさへと変わっていく



決勝前思い悩む中、にちかさんは社長の部屋で八雲なみの「そうだよ」のサンプル盤を見つける。


画像39

画像40


しかしそこには「そうなの?」と名付けられていた。


これに倣って曲中の「そうだよ」を、「そうなの?」へ変えるとこうなる。

ひんやりして ね ぴったりじゃない
今夜 わたしを つれていく靴

そうなの? 赤いじゅうたん駆けて
そうなの? 月までだって行けるわ


この靴に連れていかれれば、つまりこの魔法にかかり続けられれば、わたしは月までだって行ける。  ───でも本当?


結果的に天井社長の魔法は解けてしまった。



ではにちかさんはどうなのだろうか。

天井社長の例に倣えば、魔法をかけるのはシャニPであろう。

しかし前述したように、にちかさんのコミュにおいて、彼の神格性ははく奪されているのだ。


二人組ユニット「SHHis(シーズ)」の相方である「緋田美琴」さんのコミュは現時点で存在しないため、彼女がどう関わってくるのか。

また謎の他事務所アイドルである「斑鳩ルカ」さんがどう関わってくるのか(現時点では八雲さんとの関係がありそうに見える)も気になるところだ。

現時点で斑鳩ルカさんについて分かっていることはソロでアイドルをしており、「カミサマ」としてカルト的な人気を集めているということのみである。


ひとまず今後のにちかさんのプロデュース方針について確かなのは、優勝後コミュの最後の部分である以下だ。

画像41

画像42

画像43

画像44


思えばにちかさんは常に悲しそうな表情を抱えていた。

画像45

「そうだよ」にも心の奥深くの悲しみに近い部分で通じるものがあったからこそ惹かれたのかもしれない

画像46


そこでシャニPは「(にちかが)幸せになるための仕事をさせてくれ」と言った。


にちかさんが今後アイドルとして進んだ先には「八雲なみの時間=魔法が掛かっていた時間」の終わりがあり、ガラスの靴は元のみすぼらしい靴に戻り、綺麗なドレスもなくなり、そこにはただ平凡な少女がある。しかしそれでもアイドルとして幸せになるための仕事を探し続けるのだろう。


きっとこれからもシャニPは魔法をかけない。彼はにちかさんのコミュにおいて「魔法使い」ではないのだ。


だからこそ他のアイドル達に使っていた「プロデュース」ではなく「仕事」という言葉を選んだ。




涙はそのうち乾くでしょう
痛みはとれるでしょう
心配してもかわらない
それならはじめましょう

⦅河口 純之助 シンデレラ(灰の中から)⦆

ガラスの靴の痛みはいつかとれる。


彼女が今後もトレーニングシューズを履き続けるなら、いつか月までだって行けるだろう。



画像49








そしてこれは現在開催中の283カフェの展示です。

画像47



シャニマス君はさぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!💢💢💢

なんでここで「靴」の展示をするかねぇ~~💢💢






シンデレラ(灰の中から)の背景。カリスマではない弱さ


ここからはシャニマスについてのnoteとして言えば蛇足だ。でもこれはちゃんと踏まえておいたほうがいいので書こうとおもう。


THE BLUE HEARTSのカリスマ、ヒロトとマーシーは、あらゆる衝動、欲望、馬鹿げた夢を常に肯定し続けてきた。もはや狂気的といってもいいくらいにありのままを肯定することが、ヒロトとマーシーの曲の一つの特徴である。


しかしそんな彼らが常に否定し続けてきたものがある。それは昔のことや、未来を騙る言葉、有り体に言えば神様、宗教だ。

神様にワイロを贈り
天国へのパスポートを
ねだるなんて本気なのか?
(真島昌利 青空)
裸足になって 座禅を組んでも
結局何にもわかりゃしないだろ
日々の煩悩の中で気付かなきゃ
結局何にもわかりゃしないだろ
(真島昌利 笑ってあげる)
デカいドリルで穴を掘って 地獄の門にションベンする
天国の扉をたたいて ピンポンダッシュでバカ笑いだ
(甲本ヒロト 罪と罰)
死んだら死んでいるだけだ
地獄や死後の裁きとか
そんなのはウソっぱちだぜ
クサい金の臭いがする
(真島昌利 死人)
うまくいかない時 死にたい時もある
世界のまん中で生きてゆくためには
生きるという事に 命をかけてみたい
歴史が始まる前 人はケダモノだった
(甲本ヒロト 世界の真ん中)


彼らは常に「今」を肯定し、無根拠な未来への希望(死後の救済など)を拒絶してきた。

それはそれが彼らなりの世界とのまっとうな向き合い方だったのであろうし、将来のことばかり考えている世間に対するパンク精神でもあっただろう。



一方、ベースの河口純之助さん、ドラムの梶原徹也さんは宗教に対して肯定的だった。梶原さんは仏教を、河口さんは新興宗教を信仰しており、河口さんがスタッフやファンを勧誘し始めたことにマーシーとヒロトが怒ったことが、突然の解散宣言の一因なのではないかと言われている。(諸説あり。明確な理由については明言されていないらしい)


その色は河口さんが作詞作曲した曲にも色濃く出ており、中には宗教指導者や宗教ををモチーフにしてそうなものまである(幸福の生産者、心の救急車)。そういったものはボーカルのヒロトではなく河口さん自身が歌唱している場合が多い。


河口さんが作詞作曲し、ヒロトが歌っている曲「インスピレーション」でさえ、最後の一節

神様ならばきっときっと
僕の答えと同じはずだね
晴れなのか 曇りか 雨なのか
風は動いているよ

の部分のみ、歌唱を河口さんが担当している。


https://j-lyric.net/artist/a00734c/l013bba.html

これはおそらくヒロトがこの部分を歌うことを拒否したためであろう。


多くがヒロトとマーシーを信奉するブルーハーツのファンの中には、河口さんの宗教的な要素の入った曲は聞けないという人もいる。


しかし自分はこのままならなさがあったからこそ、THE BLUE HEARTSは更なる深みが出ているように思っているのだ。


前述した「インスピレーション」の一節、

神様ならばきっときっと
僕の答えと同じはずだね


これはまさにヒロトとマーシーが置いていったか、もしくは元々持ちえなかった「弱さ」だ。


恐らくヒロトとマーシーのどの曲を探しても、こんなような一節は出てこない。

確かなものは欲望だけさ
100パーセントの確率なのさ
死んだら地獄へ落として欲しい
どこへ行くのかどこへ行くのか

(甲本ヒロト 首吊り台から)
マニュアルを読んでるうちに
今日もまた陽が沈んでく
誰のせいにもできないよ
希望はいつも隣に座ってる

ならんだゴタクが煙幕を張って
考えるだけじゃ感じられないよ
あれは本物だ それはニセモノだ
語られるだけで見た奴はいない

(真島 昌利 さすらいのニコチン野郎)


彼らは常に自らの欲望を肯定する。そしてその通り生きている。「死んだら死んでいるだけで」生きている自分を精一杯肯定している。


神様ならばきっときっと
僕の答えと同じはずだね

対してこの詩はどうだろうか。

大いなる存在に自身の肯定を求め、その選択の責任を取ろうともしない。




すごく、人間的だと自分は思う。


昔、ヒロトさんが作詞作曲した「不死身のエレキマン」の

自分が自分の世界の主人公になりたかった
子供の頃から憧れてたものに
なれなかったんなら 大人のフリすんな
第一希望しか見えないぜ 不死身のエレキマン

という一節に対する感想で、「そんな残酷なこと言わないでよ」というものがあったのを覚えている。


ヒロトとマーシーは主人公だ。

子供のころからあこがれていた夢、自分の欲望にまだこたえられてないんだったら、その責任を取れ。今すぐ夢を追え。と言ってくる。


余りにも強い光だ。


だからこそ時代を変えたし、彼らの歌は今も語り継がれ、今もなお現役でロックスターであり続けている。


ではそうなれなかった人はどうなのか。

のちの世に描かれない人にも人生はある。


ロックスターの影にいたベースマンと、アイドルに憧れる平凡な少女


シンデレラストーリーの失敗作

世間の多くを占めるそんな描かれない生き方を、W.I.N.Gで敗退したにちかさんや、河口さんの曲に感じてしまう。




ブルーハーツは突然解散したが、解散後にレコード会社との契約を履行するため、それぞれ別々に作った曲を寄せ集めたアルバムがある。


最後のアルバム「PAN」


その中に収録されている曲、「Good Friend(愛の味方)」で河口さんはロックンロールを、ヒロトとマーシーを恐らく歌っている。


最悪の事態に ならなけりゃ
君は目もくれない

死んだらそれで 何も無いさと
わかったふりをする

わかったふりして 暮らしても
ふりに振り回され

廻るはずの 大切なことを
止めてしまうよね

「最悪の事態」ではないがひどくつらい。そんな平凡なつらさを君は見落としている。

君たちほど精一杯生きることはできないが、このまま死んだら何にもないなんて、そんなのあんまりじゃないか


自分の意図的な曲解を交えてしまっているが、こうとらえることもできる


時のかなでゆく ファッションで
夢は騙せるのか

代償の高い遊びに
迷わない 勇気を持って

ここは「時のかなでゆく ファッション」がロックンロールだとも、「代償の高い遊び」がロックンロールだともとらえられる。


Good Friend, Good Friend
Good Friend, Good Friend

光を消し去ることのできる
闇などあるもんか

闇に 引きずり回されれば
より光もわかる

光を纏っているGood Friends(ヒロトとマーシー)への皮肉だろうか。

少なくともより闇を分かっているのは自分であると言っている


愛を奪って 楽しめるほど
僕はバカじゃない

悲しい目で 見つめないでよ
決して逃げてない

ここは宗教への批判に対するアンサーだろう。解散に至るまでには何らかの話し合いもあったはずだ。

まさに価値観の相違が現れ出ている歌詞だろう。

そして個人的にはどこか空虚にも思える。


欲望を煽る言葉は
いつも 糞ったれだぜ

心を磨く 問題集
大チャンス 勇気を持って

「欲望を煽る言葉」はロックンロール、もっと言えばヒロトとマーシーの歌だろう。「心を磨く問題集」は聖典などのことだろうか。意図してか、せずか、皮肉的な喩えになっている。


僕はいつも味方さ
君の愛の味方なんだ

信じてゆく心
この世 あの世 つらぬいて
変わらずに くじけずに

いつまでも
どこまでも 輝け!

この曲はこのように締まる。

「信じてゆく心 この世 あの世 つらぬいて」というのは「死んだら死んでいるだけ(この詩自体はブルーハーツ以降のもの)」というヒロト、マーシーの価値観に対する意地だろう。


だがGood Friendsとあるように、決して敵対したかった訳ではないのだろう。この曲が収録された最後のアルバム「PAN」では、最後の三曲は全て河口さんのものとなっており、最後は「ありがとさん」という素朴な感謝の歌で終わる。

そしてそれが伝説のバンド、 THE BLUE HEARTSの最後の曲ということになる。



今回、平凡なシンデレラ、七草にちかさんを語るにあたって自分は光の影に居た彼を思わずにはいられなかった。もちろんにちかさんが宗教にはまるとかそういうわけじゃないが、彼女にはカリスマにはなれない人々の弱さを感じてしまう。



対してライバルとして出てきた斑鳩ルカさんは、おそらくカリスマでありファンから「カミサマ」と呼ばれる人物だ(斑鳩やルカという名前も宗教モチーフではないかと言われている)。

(加えてSHHisの初曲は「OH MY GOD!」だ。)

画像48



そんな彼女や魔法の解けた先の世界に、七草にちかさんは、プロデューサーはどう相対するのか。


3年目のシャイニーカラーズも楽しみである。



最後に.…ヒロトと河口さんの合作である「HAPPY BIRTHDAY」の歌詞を引用して締めようと思う。死後の世界についての意見は異なった二人だが、生きるということには共通するものがあったらしい。


いつの間にか生まれてきて
いつの間にか歩きだす
さなぎになり 蝶になり
飛んで行けるんだよ

生きる人に生まれてきた
生きる人に勇気はでる
生きる事はカッコイイ

誕生日おめでとう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?