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「どういうきっかけで短歌をつくろうと思ったんですか?」

ほったらかしにされてうれしい日なたみず三月の花をうかべていたり
                             『花の渦』


「齋藤さんはどういうきっかけで短歌をつくろうと思ったんですか?」

という質問を時折受ける。正直に言ってしまうと、自分でもよくわからない。
「ちょっとやってみようかな」と軽い気持ちで短歌らしきものを書き始めたのが、二十歳ごろのことである。小学校の教師を目指していた。家族や友人のなかに歌人がいたわけではないし、学校などで短歌をつくるという機会も、ほとんどなかった。小学生の頃には友だちに誘われて百人一首を覚え始めたけれど、私は半分も覚えられずに飽きてしまった。中学校でお世話になった国語の先生の授業は大好きで、今もよく覚えている。だからこれまで出版した二冊の歌集は真っ先にお送りしているけれど、先生もはじめは驚かれたはずだ。当時は私自身も、将来自分が「歌人」を名乗るようになるとは思っていなかったのだから。
 ではなぜ短歌を始めたのか、そしてどうして二十年以上も続けているのか。やっぱりよくわからない。確かなのは、とにかく私は短歌をつくることも読むことも好きなのだ、ということと、特に短歌に関しては、私はいくつもの非常に幸運な出会いに恵まれてきた、ということだけである。  
 初めて投稿した歌を採用してくださった馬場あき子先生。馬場先生のもとで短歌を学びたいとご自宅に電話をしたら、その電話に出てくださった岩田正先生――相手が誰なのかもわからないまま「短歌を勉強したいんです」とおずおず話す私に、先生は心底嬉しそうなお声で「それはいいですねえ、ぜひ一緒に勉強しましょう」と言ってくださった。そうして入会した「かりん」で出会った、個性豊かな先輩方や仲間たち。新人賞を受賞した時、歌集を刊行することができた時、自分のことのように喜んでくれた家族や友人たち。
 自分の歌に対して自信をなくしてしまった時、短歌が嫌いになりそうな時、私はどれほどたくさんの人たちに励まされ、助けられてきたことだろう。
多くの別れと出会いが交錯するこの季節、私はいつも、これまでの自分の幸運な出会いの一つひとつを思い返す。そして、自分もまた誰かにとっての「幸運な出会い」のひとつでありたいと、心から願うのだ。

             福島民友新聞「みんゆう随想」2019年3月26日

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