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プロジェクトの記録集をつくりたいあなたへ

さいたまトリエンナーレ2016本づくりプロジェクトについて
思考を巡らせている時間は楽しい。
心に次々と夢を与えてくれる。

正解のない旅。
終わりのない旅。

これから皆が乗り込む船の基盤をどうしようか。
船はどうやったら進んでいくのか。
それを考えるのが船長である私の仕事だ。

まずは、舟を編まねばならない。
ついにその初日を迎えた船長は
たくさんのやさしい乗組員と出会った。
乗組員と共に夢を背負う覚悟を決めた船長は
胸がいっぱいになった。

皆が喜ぶ船、皆と進める船。
それは大きい?小さい?
しっかりした感じ?それともざっくりとした?
私は心の中にある船長室の窓からよく海を眺めた。
航海が待ち遠しい。

だが、待てよ。
改めてふと思う。
この旅に目的地はない。

目的地がないだなんて、聞いたことがない。
だが、目的地を決めずに旅に出ることにしたのだ。
そんな折に、私たちの航海にはどんな船が必要なのだろうか。
肝心の船の基盤が決まらない。どんな備えが必要なのか、まるでわからないのだ。
出航までの、船の完成までの、道筋が決まらない。
理屈がまなこを曇らせる。時間ばかりが過ぎていく。

私の一声を乗組員が待っている。
彼らの顔が順々に瞼に浮かんだ。
私は彼らと家族のようになりたかった。
だから彼らに旅の不安を背負わせてはならない。
間違いなく舟を編むことへの焦りを募らせた船長は
いつしか旅の本当の目的を見失ってしまった。

途方にくれた船長は、一人の自由気ままな船乗りに出会った。
「目的地のない旅に出るの?そりゃ、いいや。きっととても楽しいだろうね。」
「それが、船の形さえまだ決まらない始末さ。長い旅だろう?乗組員のためにも何に気をつけてつくるべきなのか。。。」
「なんだってそんなこと。」
「船長だからさ、船長は乗組員を守らねばならないのだ。」
私がそう言うと、船乗りはケタケタと笑った。
「心配しなくていい。君はただ、乗組員たちをとりあえずでも船に乗せて、彼らと共に旅の行方を目撃すればいいのだ。
旅の面白さはね、どこにだってある。
迷ったっていいんだよ。大事なのはその瞬間に立ち会えるかどうかなんだ。」

船ならとりあえず、「あればいい」のだ。
驚くような工夫もいらない。
丈夫である必要もない。
ただその船に乗って見える世界を
「目撃する」ことには大きな意味がある。

私はやっと笑うことができた。
船も道筋も上手につくることはやめることにした。

この日、船長は目的地を決めた。
終わりのない旅の目的地を決めた。

「目指せ、宝島。」

船長は声をあげた。
「船をつくろう。とりあえず自分が乗れる場所だけ確保しろい!」
乗組員が皆、顔を見合わせながら
さてどうしたもんかと首を傾げている。
船長は笑いながらその光景を目に焼き付けた。
その日から乗組員との試行錯誤の船づくりが始まった。

船長室の窓から海を見る癖は
いつしか甲板を駆け回る乗組員を眺める癖に変わった。
船の完成まであと少し。不安はある。
でも彼らがいれば何があっても大丈夫だと思えた。

きっとどこかにある目的地、それがどんなところかわからない。
でも、きっとそこにたどり着くまでの道のりは震えるほどに面白いはずだ。
だから今はただ、航海の無事を祈る。

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