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【読書感想】「ミステリーゾーン4」

前半ネタバレ無し
下の方に段落開けてネタバレを含む感想

「ミステリーゾーン4」
リチャード・マシスン 他

エンタメ度    ★☆☆☆☆
文の理解しやすさ ★★☆☆☆
ギミック性    ★★☆☆☆
世界観の独特さ  ★★★☆☆
読後の満足感   ★★☆☆☆
(この辺を重視して私は本を読んでるよという目安。あんまり参考になんないぞ)

数人の作者の短編を集めたものの4冊目。(なお、私は1~3を読んでない)
ホラーよりのSF。
1960年代のSFのテレビドラマに使われるストーリーの原案だったようだ。
日本でいうと「世にも奇妙な物語」形式のドラマかな?
原案だからアイデア出しとかプロットの大枠のつもりというか、映像になることが前提で、文章の表現が詰められてないように感じる部分もある。

まえがきを読んでから短編を読めば、当時の脚本家たちの青春が形になった本なんだなって事がわかる。
SFが好きでお互いの作品を読み合いながら、映像作品になることを考えつつ、新しいお話を考えること自体が楽しかったんだろうな。
それが伝わってくるからちょっとワクワクする。

全体的に粗いし現代ではそう珍しくない展開のものもあって、ストーリーを味わうというよりはメタ視点で一つの時代を垣間見るように楽しんだ。

以下ネタバレ。
それぞれの短編についての感想。












1.「レディに捧げる歌」
チャールズ・ボーモント

一話目のこのお話が傑作だった。
レディ・アンというオンボロの客船で新婚旅行しようとする若き夫婦のシーンから始まる。
先に乗っていた客たちに乗るなと追い返されそうになるが、断固として乗船する夫婦。
乗ってみると自分たち以外の客は全員かなり歳を召した人達で、途中から夫婦たちにとても優しくしてくれる。

読者としては、怪しすぎないか?と思う要素しかなくて予想しながら読むのを楽しめる。

簡単に結末を言うと、
レディ・アンは昔から新婚旅行によく利用される客船で、今回の航海を最後にスクラップにされてしまう。
だからかつての新婚旅行客たちが一同に集まって、大昔の愛の長旅を語らいながら海上で船ごと心中しようとしてるんだ。
最初若き夫婦を追い返そうとしたのは、無関係な人を巻き込みたくなかったからだ。
最期に老人たちは若き夫婦を脱出させ、甲板で全員笑顔で手を振りながら死の航海に向かう。

強烈なノスタルジーと、船上の穏やかな時間と、ドラマチックな死と虚しさよ。
素晴らしいお話だった。
このお話は私の心に長く残ることだろう。

2.「高度二万フィートの悪夢」
リチャード・マシスン

飛行機に乗ってる主人公が窓の外を見てみるとやばい化け物がいて、そのことに周りの人が気づいてくれず、孤独と焦りの中でなんとかしようとするお話。
映像化を意識しているように感じるお話の構成だった。
映像だったらきっと怖いからね。
ジャンプスケア系で想像できる、化け物の滑稽さをスパイスにしたホラー作品だ。
俳優が上手だったら焦りのシーンがストーリー全体に危機感をもたらしてより怖いのかもね。
あとがき読んだら、作者はドラマの出来が気に食わない様子だった。
当時、きっと着ぐるみで頑張るしかなかったんだと思う。
たった一話で予算も限られてるだろうしね。


3.「日々是好日」
ジェローム・ビクスビー

とある村で生まれた子供が異形の神で、機嫌を損ねると全知全能の力で最悪なことをするので、村は空間ごと異空間に送られて人もどんどん異形になって減っているというお話。
キリスト圏の人が読んだらもっといろんな感想が持てるかもしれない。
「意味もなく最悪なことをする神」という題材は、現代の、しかも日本ではそう珍しいものじゃない。
昔のアメリカでテレビで放送ってなると、かなり尖った内容だったのかも。

作中にこういう文章がある。

アンソニーは、ダン・ホリスを、この目で見なければとうてい信じられないようなものに、変えた。

120ページ

ラブクラフトに影響を受けてる作者さんかもしれないな、と思った。
ラブクラフト構文なんだもの。

4.「死の宇宙船」
リチャード・マシスン

三人乗りの惑星探査船がとある惑星に降り立つと、そこには本人たち三人の死体があり驚愕し恐怖する、というお話。

作中の三人は「宇宙人の作り出した幻覚に違いない!この星、知的生命体がいるぞ!」とか「タイムワープだ!」とか言っていて、私はタイムワープ(タイムリープ)だと予想しながら読んでいた。

オチは、三人はすでに死んでいて作中で話してるほうが幽霊。
宇宙探査船ごとすでに死んでた。

アイデアをサッとまとめただけの話に思えたけど、宇宙を彷徨う幽霊船っていうテーマはロマンがあってとってもお洒落だ。


5.「夢を見るかも……」
チャールズ・ボーモント

1つ目の短編と同じ作者さんだったから結構期待してたんだけど、夢オチで死ぬ話だった。
現代人の感性だとありきたりに思えてしまう。
嫌いじゃないけど期待してしまった分、ちょっと厳し目に見てしまったね。

夢での恐ろしい出来事を精神科医に説明する男のシーンから始まるんだけどそれがすでに夢だったというオチ。
男は窓から落ちて死ぬんだけど、現実の男は窓から落ちた夢を見たショックで心臓麻痺で死ぬ。
それで、「病院に来たと思ったら、いきなり寝てそしていきなり死んだわ…どうして…」的なことを医者に言われる。

このストーリーが本の表紙になってるからチャールズ・ボーモントという人が仲間の中では一目置かれてたんじゃないか?と思った。


6.「消えていく」
リチャード・マシスン

とあるノートに書かれている内容である、という体のお話。
男の日記だ。
ある日を境に知り合いがこの世にいなかったことになりはじめ、しかもどの記録からも消えている。
そういう知り合いがどんどん増えていく。ついには妻もいなくなる。
家すらもなくなって…次は自分かも…
そういう内容の書きかけのノートがカフェのテーブルに置いてあって、「あのテーブルにはしばらく誰もご案内してないですが…」と店員が言っているという話。

よく考えたらこのリチャード・マシスンという人のお話は3つともストーリーの全体像が掴みやすいね。
何がやりたいかっていうビジョンをはっきり持ってお話を作れる人なのかも。

7.「吠える男」
チャールズ・ボーモント

世話になった教会の地下に吠えまくってる男が幽閉されてて「ここの神父はおかしいんだ!ここから出してくれ!」と主人公に訴える。
なので法治国家でこれは無いんじゃない?と神父に講義すると「あれはサタンなので解き放つとこの世界は大変なことになる」と言われる。
そうかぁ…本当におかしいなこの神父、と思った主人公は吠える男を開放する。
本当にサタンだったので世界が平和ではなくなる。
というお話だった。

チャールズ・ボーモントさんは結構しっかり信仰心があった人なのかも。
どんなに怪しくても神父の言う事を聞かなかったことが最悪な事態を引き起こしてるから。


8.「遠い電話」
リチャード・マシスン

老婆のもとにかかってくる不気味な電話のお話。
話の構成はだいたい日本の都市伝説の「メリーさん」と同じ。
電話の相手は男だし名乗らないけどね。

私は「メリーさん」を知っているから既視感があるけど、リチャード・マシスンさんはこれをゼロから考えだしたんだろうから、絶妙に現実に有り得そうな不気味なお話に強かったんだなって分かる。

主人公が老婆であまり動けなくて、頼りのヘルパーさんが話半分で真剣に聞いてくれないっていう部分も恐怖と焦りを煽るよね。
「高度二万フィートの悪夢」でもそうだったけど「信じてもらえない」のは絶望を効果的に演出できる要素なんだなあ、と思った。


9.「素晴らしきかな、電子の人」
レイ・ブラッドベリ

このお話だけすごい異質だった。
他の短編と違ってホラー要素が無いのが第一にあるんだけど、文章のテンションが異様に高い。
真面目な文章なんだけどシュールギャグみたいな…
どうやってこの作品を映像化したんだろ?映像だと面白さ伝わらない気がする。
この魅力は文章ありきだ。
ナレーションを入れれば行けたのかな…

おばあさん…
おばあさん!?

どこから説明すればいいんだ。

アンドロイドのおばあさんを起動するのを三人の子どもたちが心待ちにしてる、というのが主軸なんだけど。
回想だからかつてその時の子供だったおじいさんの一人称視点で、しかし発想は全部子供らしい表現を使う文章をしているというか。
子供特有の、世界はどこまでも広がって希望に満ち溢れてる文をしていると言うか。それなのに描写自体はきちんとしてるというか。

これは実際読んでみないと分からないと思う。


全体的に面白い本だった。
1話1話が、というよりはこのまとまり方が。
最初の方に書いた通り彼らの青春を感じられた。
それぞれの作品の傾向の違いがはっきり現れてるのも面白かった。
こうなってくると1~3も気になってくるね。


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