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【読書感想】「魔道師の月」

前半ネタバレ無し
下の方に段落開けてネタバレを含む感想

「魔道師の月」
乾石智子

エンタメ度    ★★★☆☆
文の理解しやすさ ★★★★☆
ギミック性    ★☆☆☆☆
世界観の独特さ  ★★★★★
読後の満足感   ★★★★☆
(この辺を重視して私は本を読んでるよという目安。あんまり参考になんないぞ)

異世界魔法ファンタジー。
「夜の写本師」の次に出た本。
ダーク成分は前作より気持ち少なめだったかな。
続きでもあるけど、前作を読まなくても大丈夫。

お話としては、意思を持つ特級呪物「暗樹」をメイン軸にして、本の魔道師キアルス、星読みのテイバドール、大地の魔道師レイサンダーの宿命や運命が交錯する戦い。

文がさっぱりしていて分かりやすい。

前作のメイン時間軸より1000年ほど前が舞台だから、いくつかの魔法がまだマイナーな状態だった。
魔法は別体系の魔法が弱点である、という描写もあった。
これに関しては前作を知っているとより面白いと感じるかも。

お話の終わり方がなかなか壮大なことになるので、「登場人物たちは大昔の神話の時代に生きてるんだなあ、彼らもまた神話なのだ…」って思った。

表紙の絵もまた緻密で素晴らしい。
キアルスだよね。
なんて美少年なんだ。

ここから下は本編のネタバレを含む私的に印象に残ったシーン














印象に残ったシーンや好きなシーンを順番に書き連ねていく。自分語りのようになってしまうかもしれない。

・キアルスが登場する時の文章について。
文体がお気楽な感じになる。
モブの描写に遊びが増えるし、キアルスが心のなかで自分自身にツッコミを入れるような描写がある。
前作ではそんなこと全然なかったから、おお!?ってなった。
レイサンダーくんやテイバドールのときはあんまりお気楽じゃない。

・テイバドールの背骨に宿る星の光。
父の「憎むな」という遺言が信念としてテイバドールに宿る、この表現がとても美しくて好きだ。
背筋が伸びる感じが分かる。
何か力を手にしたときにこの星の光に交じるから、テイバドールに力を与えているのは良いものだっていうのも分かる。

・西の砦。
発展していく砦、という展開が大好きなんだ。
これは幻想水滸伝シリーズのゲームの影響なんだ。
幻想水滸伝のサブ要素で「拠点の発展」があって、それがとてもわくわくする。故郷を追われた人々が打ち捨てられた古城なんかに集まってきて、仲間が増えるごとに施設が充実して見た目も綺麗になって行ける部屋も増える。西の砦の章を読んでいるときはまさにこのワクワク感が蘇ってきて、読んでるのが本当に楽しかった。

・ただの少年がその勇気によってリーダー格になる。
これも幻想水滸伝のストーリーの展開を思い起こさせて懐かしい気分になった。
こういう展開が大好物なんだな、という自己理解を得た。
「村に生きる少年が、やがて大きな大戦争に…」これだけでも好きなのに、その過程の物語を丁寧に書ききっていて素晴らしかった。
テイバドールは最後までテイバドールでいたのも良かった。

・砂漠のオルクレ
この本をおすすめしてくれた友達が「砂漠に住む魔道師が氷入りのお茶を作るということのためだけに魔力を使う。そういう魔法の使い方っていいよね」って前に言ってたから、ここのことだ!!ってなった。
魔道師がいなかったら王族でさえも手に入れられない氷入りのお茶だ。
家族への愛と、孤島のようなさみしさと、生活するには十分な豊かさと、エキゾチックな雰囲気のある良いシーンだった。

・通貨の普及という名の民族支配
えげつねえ。
おしまいじゃん、と思った。
絶対通過があったほうが便利じゃん、と知ってるからこそ文化的敗北をひしひしと感じた。
せめて戦争で決着をつけてくれよ。ひと思いにやってくれ。

・暗樹との決着についての考察。
正直に言うとちょっとわかりにくかった。
なぜ暗樹を封じられたかについて考えてみよう。
同時にあとがきでも触れられていた「闇」についても考えることになる。

一度暗樹を退けた際に欠片が入ってしまったから、レイサンダーくんは人間ではなくなってしまったんだと思う。ていうか死んだ可能性ある。
その後、水の一雫になり空間を超えて北極に行ったりあらゆる動物になったりしている事からも魔道師の域を超えていることが分かる。
呪文ひとつで姿を作り変えている。幻術ではなく。

なぜこんなに強くなってしまったか?
「闇」を心に持っていないと魔道師としてはいまいち、と前作から言われているので暗樹の欠片が力の源になっているんだと思う。

この「闇」とは何か?
「渇望」「信念」「覚悟」「強欲」等を含む強い感情のことである。
「闇」自体に善悪はないけど強すぎると破滅に向かう。
暗樹は意思を持つ闇なので、破滅に向かわせようとする。闇に伴う強い感情を人間から引き出したいのかもしれない。

なぜレイサンダーくんは闇に飲まれなかったか?
あちこちで彼の人となりを描写されている通り、欲求を持たない性格だからだと思う。
感情を伴わないから、闇の、力の源としての側面だけを受け取ることができるのかもしれない。

つまり、
1.キアルスにテイバドールの歌を教えてもらったからその歌を使って暗樹と相打ちになるが、レイサンダーくんが死ななかったため封印に至らず欠片が入るという前代未聞の状態になる。
2.レイサンダーくんの性格上、精神が闇に飲まれないため魔力が人知を超える。暗樹とつながりができてしまっているため時空と空間と精神を超え、暗樹が極光樹を滅ぼすところや死んでいった数多の勇者たちの記憶を見る。
3.キアルスが完成させた「タゼンの歌謡集」は極光樹そのものである。ただし暗樹を退けるために使うと極光樹1本と魔道師が一人死ぬ。
4.極光樹1本と魔道師二人(キアルスとレイサンダー)の命でやってみようというやぶれかぶれの突撃をかます。
5.激闘の末、レイサンダーくんが暗樹を全部取り込むという奇策に出る。あらゆる記憶、テイバドールの星の光、全てのことがつながってこれに成功。とどめに暗樹の現宿主であるガウザス皇帝の、闇に食われる前にもらった優しさで糸を作って己の中に縫い閉じ込める。
6.レイサンダーくんは暗樹(この世の悪意の根源)と共存できるのでハッピーエンド
って感じかな。

やぶれかぶれだよね!?
タゼンの歌謡集は復元したその一冊しかないから、それ使ったら後の時代に暗樹が出たときに対抗策なくなるよね!?
ここでガウザスと暗樹を止めないと大量の人間が死んでたから時間がなかったのは分かるけども!
失敗してたらかなり悲惨なことになってたな。
この、後のこと見えてなくて勢いと熱さに任せて行っちゃう感じが若さだね。読み終わってもヒヤヒヤしたわ。
そして神話だね。
レイサンダーくんは神話に描かれるようなスケールの男になった。

うーん、面白かった!
あと私は黒髪癖っ毛の男の子を好きになってしまうという特性を持つから、キアルスもレイサンダーくんもすごい好きだった。
「好きな見た目の男たちが同じ空間にいて会話してるなあ…」とかどうしようもないことを思って読んだりしていた。

次の作品も気になるね!絶対読むぞ!

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