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じい散歩 (双葉文庫) 藤野千代 著

夫婦あわせて、もうすぐ180歳。
三人の息子は全員独身。
長男は高校中退後ずっと引きこもり。唯一しっかり者の次男は自称長女。
末っ子は借金まみれ。

新聞広告でこの本を見つけた私は迷わずAmazonで注文してしまった。
ユーモラスなタイトルと紹介文そして表紙のイラストに惹きつけられたのだ。

90歳近い(現在は90歳を超えた)この老夫婦は自分達の親世代とあまり変わらない。
深刻な高齢者問題がテーマでもおかしくないが、ここに登場する明石新平は
三人の息子達に頭を悩ませ、認知症気味の妻英子に浮気を疑われて
やりきれない思いをしながらも、毎日気ままな散歩に出かけて行く。

かつて建築会社を経営していた彼はのんびりと名建築巡りをしたり
馴染みの喫茶店でランチとコーヒーをたいらげて、以前の事務所だった
部屋で趣味のヌード写真集やアダルトビデオを堪能する。
そして英子にお土産の饅頭を買って夕飯までには帰宅するのだ。

こうして彼の毎日のルーティンである散歩を中心に物語は進んでゆく。
とりたてて大きな出来事が起こるわけではないが、明石家の何気ない
ごく普通の日常がほのぼのと綴られている。

ただ最後、英子が軽い脳梗塞を起こすことによって、新平は今まで通りの
気ままな散歩は難しくなるが、それでも英子を連れて出かけて行く。
家事や妻の世話もまた彼の新しいルーティンとして生活に加わわり
毎日を淡々と暮らしてゆくのである。

そこには老々介護の悲壮感は微塵もなく、むしろ読み終わってどこか温かい
気持ちにさせられる。

その後この本の続編で「じい散歩・妻の反乱」が出ていると知ったので
早速注文しようと思ったが、まだ文庫本にはなっていなかった。

私は外出する時、必ずハンドバッグに文庫本を忍ばせて行く。
美容院、クリニック、銀行、あるいはレストランでどのぐらい待たされるか
わからない。
そんな時本を読んでいれば、いくら待たされても苦にならないのだ。
もっとも一冊全部読み終えるほど待たされたことはないが。
ただ単行本はハンドバッグに入れて持ち歩くには少々邪魔になってしまう。
そこで文庫が発売されるのを待って購入することにしている。
すぐに読めないのが難点だが、首を長くして待っているのもまた
楽しみの一つかも知れない。










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